閑話02

「アシュリー・フォン・ブレストマイズ!今日この時を持って婚約を破棄する!」

夏の暑さがほんの少し弱まってきた夏月九十日末日


 この日、午前中に卒業式を迎えた少年少女達は晴れて大人の仲間入りをし、夕方から催される合同のデビュタントに参加していた。

 その中でアシュリーは婚約者であるファスタン・ピート・パストミリにエスコートされるはずだったが肝心のファスタンは現れず、仕方なく父親にエスコートを頼んでパーティー会場に来てみれば婚約者のファスタンは違う女をエスコートしていた。

 それだけでアシュリーは憤懣やるかたなしと言う心境だったが、まだどうにかなるなどと楽観的に考え、心配する父親はファーストダンスが終わったら帰って貰った。

 その後は壁の花になりつつ動きの悪い、踊りにくそうな男子のお誘いを断りつつ同じ壁の花仲間と話しの花を咲かせ、盛り上がってきたところで先程の言葉がパーティー会場に響き渡った。

 声のする方を見れば先程エスコートしていた女の肩を抱きつつ此方こちらを壇上から此方を睨みつけているファスタンの姿があった。


 睨みつけたいのは私の方だ。


 思わず怒鳴り散らしそうになるが、淑女の嗜みとして学んだ『本来の感情、表に出すべからず』を思い出し、すんでの所でアシュリーは思いとどまり言葉に詰まる。

 口を開かないために俯いたが、肩の怒りによる震えは収まらず、無意識の内に震えを止めようと両手で肩をつかんだ。

「そして、新たな婚約者を皆様に紹介しよう!ベーリック商会の一人娘、サラ・ベーリックだ!」

トドメと言わんばかりに高らかと宣言されるファスタンの言葉に、居ても経っても居られず会場を後にするアシュリー。

 怒りに我を忘れる寸前だったが、ここ三年間の積み重ねのお陰か、歩を進める足取りは踏み締める様なものでは決してなかった

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