問題の深刻化

「今言った情報の真偽は家に帰ってから確認すると良い。

 ブレストマイズ卿に聞くのももちろん結構だが、自分で情報を収集する事も考えておいた方が良い。

 ……サリー、情報収集のノウハウをマーシェリーに教えてやってくれ」

話はお開きの方向に進んでいるが、ハリスは二人に紹介したい人物がいるらしい。タツヤの逆側に声を掛けると、いつの間にかそこにはメイドの姿があった。


「彼女はサーシャ。元リーズベルト子爵の令嬢で、今は平民で『凡骨の意地』に在籍している」

「どうぞ、よろしくお願いいたします。情報収集に関しては一家言あるつもりです」

ハリスの言葉に恭しく答える彼女の声に、アシュリーたちは聞き覚えがあった。

 先ほどこの部屋へ通してもらった女性が、確かこんな感じの声だった気がする。


「サーシャ・リーズベルト……って、突然中央情報局から姿をくらました凄腕の情報収集者じゃないですか!?」

どうやらアシュリーは彼女の経歴を知っているらしい。隣のマーシェリーはのほほんとしている。


「まぁ、過去の事などどうだって良いじゃないですか。聞いていますよ?

 マーシェリーさんはアシュリーさんの専属侍女を賜っておきながら毎日のほほんと遊んで暮らしているそうですね?

 ちょっと付き合ってもらいましょうか。獣人は人間よりも五感が優れていると聞いていますので鍛え甲斐があると思っていたのですよ」

アシュリーの言葉を軽く受け流しながら隣のマーシェリーの襟首を掴んで退出していくサリー。

 その様子を主人であるアシュリーは呆然と見送る事しかできなかった。



 後からブレストマイズ邸に届けられた手紙には、マーシェリーは優秀で、三日で一人前にできそうだという文言が認められていた。

 それから四日後からはマーシェリーが調べ上げた情報が便せん五枚を超え、アシュリーはその情報の精査に時間を掛ける事になった。


 それから三日。情報収集を終え、マーシェリーはやりきった、溌剌とした表情でアシュリーの元へ帰ってきた。

 彼女が収集してきた情報は以下の通り。


 一つ。ファスタンはハリスの言葉通り薬物の主原料になる薬草農場と、合成の為の工場を経営している。

 一つ。ベーリック商会はハリスの言葉通り作り出した薬の運搬、販売を行っている。

 一つ。ファスタンとアーヴァンは作り出した薬物をファスタンは子供向けに、アーヴァンは大人向けに販促している。

 一つ。販促している中でブレストマイズ卿の名前を出して信用を得ている。

 一つ。ファスタンと懇意になった令嬢は夜な夜なパストミリ邸に集まって極秘のパーティーを行っている。

 一つ。学院生活中、ファスタンの周りに居た女子の内数人が忘我の症状に見舞われ、内々に決まっていた婚約を破棄されている。

 一つ。事の真相を知った親がパストミリ家を訴えようとしたが、ブレストマイズの名を出されて諦めた。

 一つ。ベーリック商会の摘発の中でそれなりの数のパストミリ家子飼いの傭兵が摘発されたが、パストミリ家は疑いを掛けられていない。


 この報告書を清書したアシュリーは、ハリスに聞いていたよりも深刻な状況に、肩を震わせながら父親が居る書斎へ殴り込んだ。

「親父殿!」

思わず昔の調子で怒鳴り散らすほど、アシュリーは怒髪天をついていた。

「マーシェリーにファスタンの事を調べさせたら真っ黒だったぞ!パストミリ家がだ!」

驚いて言葉が紡げないハーベスターに、殴り込んできた勢いのまま書き上げた報告書を叩き付けるアシュリー。

「こんな事に関与していたら絶縁してやる!」

最後の言葉に慌てたハーベスターは、叩き付けられた報告書を読み込み青い顔で固まってしまう。

「親父殿は知っていたか?」

「し、知らん」

「言葉では何とでも言える。

 今、マーシェリーに家捜ししてもらってるからな。

 これからその報告書を持ってセナ王女殿下の元へ行ってくる」

わざわざアシュリーは、ハーベスターに叩き付けたのと同じ書類を取り出してハーベスターに見せつけ、そのまま書斎を後にする。

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