凡骨の意地情報局

Luckstyle

ブレストパスト抗争

プロローグ

晴れ渡る鈍色の空の下、一台の蒸気自動車が停車する。

そこから下りてきたのは肩下まで伸びた髪をハーフアップに纏めたご令嬢。

残暑に加えて昨日まで数日間降った雨で辺りはムワッとした空気が流れるが、彼女の立ち居振る舞いは涼やかで、往来する何人かは足を止めて彼女を観察する。

 そんな彼らに目を向ける事なく、彼女は側の建物に侍女を伴い入っていった。


 ここはハスラット王国王都西区にある傭兵団『凡骨の意地』の拠点。

 時は王国歴138年秋月の四十日目。残暑続く夏の陽気の昼下がり、表の喧噪を迷惑がるかのようにひっそりとした所から始まった。


 彼女が去ってすぐ、けたたましい音と共に建物の二階から男がってきて強かに腰を打ち付ける。

そして間髪を入れずに立ち上がり、逃げるように立ち去って行った。

 その者の表情は痛みに歪む訳ではなく、ただただ恐怖が張り付き、盛大に股下を濡らしている。

 彼にとって救いなのは、この時間帯は暑さで往来が少なく、彼が取った宿屋もここから近い事だろうか。



 突然鳴り響いたガラスの破砕音に、アシュリーは一瞬だけ身を固め、次の瞬間には適度に力を抜いて腰を落とした。

 周囲を伺うと、ゲラゲラ笑う輩やガラスの破砕音など無かったかのように業務を進める者しか居らず動じてしまった自分の方がおかしいかのような錯覚を覚えた。


「アシュリー様、ハリスが通すようにと申しておりますのでよろしくお願いします」

アシュリーがこの拠点に入って最初に声をかけた鈍色の髪の女性はハリスに確認を取りに行っていたのだが、戻ってきたようだ。

 すらりと伸びる肢体に豊満な胸、あどけなさの残る小綺麗な容姿は男でなくとも魅力的に映る。

 半分でもいいからその無駄な胸の脂肪を寄越せとは思うが、アシュリーの表情は爽やかな微笑みを形作り背筋を伸ばす。

 通されたのは二階の、場所的には通りに面した一室だった。

 丁度、玄関の真上だとアシュリーは当たりをつける。

 部屋の中には調度品などはなく、所狭しと書棚が置かれ広いであろう室内はとても狭く感じる。

 その中で無理やりスペースを作っただろうとの印象を受ける応接スペースの向こうには大穴の開いた窓枠。その前で溜め息とともにコーヒーカップを傾ける壮年の男が佇んでいた。

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