二十三話 ウルフの群れ

 ウルフたちはバラバラに動きだした。


 だがその動き方には役割が決まっているのか、時々近付いて爪や牙で攻めては離れていくウルフたち。


 前衛の二人は、少しずつ少しずつ傷が増えていく。




「くっ! 焦れったいわね!」


「がまん」




 ルクシアとラプスウェルが壁となってウルフの攻撃を受け止め続ける。


 イリスはウルトのクールタイムが終わり次第、二人を回復して援護している。


 そうしている間にリリアは矢継ぎ早に狙って射る、射る、射る。


 だがウルフたちには当たらない、当てる必要がない。


 牽制、制限、誘導、一匹一匹にそれが出来ればいいからだ。




「すみません、もう少しだけ待ってください!」


「ごめんね、私も攻撃スキルの一つでもあれば良かったんだけど」


「大丈夫ですよ! もう少し、右に……!」




 リリアはイリスと話しながらも、一匹で近付いてくるウルフを狙っていた。


 既に放たれた矢を避けていくウルフは、ルクシアの近くからラプスウェルの方へと急激な方向転換をする。


 その瞬間にリリアは会心の一矢を放った。




「ここですっ!」




 勿論、その矢もウルフに避けられた。


 だがリリアの狙いは、ラプスウェルの目の前にウルフを誘導する事だった。




「来たわねっ」




 ラプスウェルが深紅に染まった大剣を、頭上から振り下ろした。


 無理矢理に矢を避けていたウルフが、その攻撃を無防備な腹で受ける。


 単純ながら強烈な一撃を食らったウルフは、身体が半分になって消滅した。




「やったわ! まずは一匹目ね!」


「あらあら、喜ぶのは早いわよ」


「リリア、次はやく」


「任せてください!」




 俺は後ろからみんなの動きを見ていたが、素直にいいチームワークだと感じた。


 ウルフのような素早い相手には攻撃が『当たる状況』を作りだせばいいだけ。


 それをリリアは、一人でしっかりこなしている。


 みんなもそれを信頼して動かない、最高のタイミングを待っている。




「ここ」


「やるじゃない」


「かんたん」




 今度はルクシアがウルフを一匹倒す。


 ラプスウェルと軽口を言いながらも、すぐに残りのウルフを警戒していた。








 リリアが追い詰める、二人が倒す、イリスが回復する。


 このルーティンが組めると、続々とウルフたちの数を減らしていく。


 そしてラプスウェルが、最後の一匹になったウルフを吹き飛ばす。




「これで最後ね!」


「おわり」




 地面を転がっていったウルフは、姿が消える直前に横たわったまま、オオォォォン!と大きく吠えた。


 そしてウルフが消滅したので、俺たちはドロップ品がインベントリに入っているかを確認する。


 同時にクエスト受注書も眺めていたが、一向に『討伐完了』にならなかった。




「あら?」


「おかしいですね」




 クエストをクリアした場合は受注書にクリアマークが付く。


 なのにも関わらずすぐにマークが付かない。


 という事はまさか、さっきの遠吠えは……。




「みんな、落ち着いて聞いてくれ」


「森、うるさくなってきた」


「あぁ、イレギュラーが起きたかもしれない」


「それって……」


「多分だけど、追加討伐って事ね」


「そうなるな」




 俺は察しの良いラプスウェルに、相槌を入れてから周りを警戒する。

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