第1話 大根役者な共犯者たち

 おはようおはようおはようおはよう。

 呪詛。花のミツのような、甘い呪詛。

 冷えた耳に、ひそか先輩の生ぬるい吐息がかかる。耳の産毛まで舐めとられそうなほど近い。

 憧れの先輩が、僕のすぐ後ろにいるのだ。

 目を閉じて神経を集中させると、先輩の息遣いをより感じることができた。

「起きてるんでしょ、たつるくん?」

 密先輩は寝そべったまま身をよじる。丸まった芋虫のような状態で床に寝そべる僕に、さらに近づいてきた。

 顔は見えなくても、いたずらっぽく目を細める彼女が容易に想像できた。

「……」

 僕は目をつむったまま、何も答えなかった。

 だが、それを無言のイエスととったのだろう、先輩は続ける。

「ね。鞘師くんたち、よく寝てるね?」

 ごー。

 ごがー。

 鞘師とトラビスのわざとらしいイビキが響く。鞘師は締まりのない緩んだ腹を掻き、トラビスは「うーん」と寝がえりを打つ。誰が見たってタヌキ寝入りそのもの。

 この大根役者二人は、大学の映画サークル仲間であり……。

 ある作戦を共に遂行する、僕の「共犯者」である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る