「パパとママの歌」の真実

 今回は朝ドラのちょっとしたネタバレがあるかも知れませんので、


「今週の朝ドラ見てないわ、ネタバレされたくないよー」


 という方はここで回れ右をよろしくお願いいたします。


 今週は結構考えてしまう週でした。始まってからずっと面白いドラマだと思ってましたが、今週は本当に見事だった。


 まず簡単にどんなドラマかお話を。


 主人公の寅子(と書いてともこ)は大学で法律を学ぶ女子大生ですが、当時は女性が弁護士になる道が開かれたばかり。大学と、その前の女子部にいた数十人の女生徒も卒業までには5人に減ってしまいます。

 貧しい家で育って女性であるということで厳しい生き方をするしかなく、女性を捨てて男装をしている「よね」、華族のお嬢様の「涼子」、弁護士の夫がいる「梅子」、朝鮮からの留学生の「崔」と、学生ではないが涼子のお付きの「玉」と6人でいつも行動しています。

 大学を卒業する年、今でいうところの司法試験を受けるんですが見事5人とも不合格。1年先輩の「久保田」だけが筆記を合格しているが、口述試験で不合格。


 寅子は働きながら仲間達と一緒に1年後の試験に向けてがんばるが、今週はその仲間が次々と脱落していきます。

 まず崔が、自分を日本に呼んでくれた兄がいわゆる「アカ」として「特攻」に目をつけられたことから朝鮮に帰国。次に涼子が華族の家の事情で結婚しなくてはいけなくなり断念。次に梅子が横暴な弁護士の夫に「若い女と再婚する」と離婚を突きつけられ、末の子を連れて逃げるために試験の日を利用した、と私は思ってます。普通の日だったら捕まえられるかも知れないけど、試験で留守という理由をつけてる間に遠くに逃げたと解釈しました。


 同期のよねと先輩2人、それから寅子の家の書生の雄三、同期の男子学生轟、全員が筆記に合格。最終試験の結果、合格したのは寅子、先輩2人、轟の4人。寅子は晴れて女性初の弁護士になることに。


 本当は大喜びしたいが、ずっと心の中がもやもやしている寅子。そして優秀だったよねが口述試験に落ちた理由が、まあこれは、よねさんがけんかを買ったのが悪いと思うが、女子に対する偏見や差別からだったと知ることになり、もやもやの理由を理解します。


「私達はずっと怒っている」


 祝賀会でその気持ちを話す寅子。

 その前に「ママとパパの歌」で書いたあの歌が静かに流れます。


 あの歌がどうして面白いかというと、現実とは全く違うからです。横暴で大きくて強いママに貧弱で弱いパパがコテンパンにやられる、そこが面白い歌(というにはパパ気の毒すぎるが)なんですが、現実は全く逆。

 華族の家を存続させるために男性の戸主が必要で結婚するしかなかった涼子。

 横暴な夫に馬鹿にされ続け子どもを自分が守りたいと思って弁護士を志したが結局離婚され、末の子だけでも守りたいと逃げるしかなかった梅子。

 女性であることの苦痛を煮詰めたような生き方を知るだけに、女性であることを捨てた生き方を貫こうとするよね。

 それから女性である以外にも朝鮮人であることで差別された崔。


「自分は男女関係なく弱い人の味方になりたい」


 そうきっぱり宣言する寅子の気持ちを裏打ちするのが、あの歌だったんですね。いや、見事な脚本です。今週は本当に濃い一週間でした。

 ドラマは今昭和13年。第二次大戦の足音が聞こえる頃です。法律的にも女性の権利は保証されておらず、結婚すると全部の権利を夫が奪うことになる。寅子はそもそも、その結婚制度が許せなくて、結婚せずに弁護士になる道を選んだわけですが、今週はそんな中で共にがんばった仲間たちが、その理不尽に飲み込まれて夢を諦めるしかなかった。


 昨日、松山ケンイチ演じる判事が寅子の「試験に手応えがあったのに」との言葉に、


「当たり前だ、同じ実力なら男を合格させるに決まっている、手応えがあるではだめだ、それ以上でなければ」


 と言うんですが、おっしゃる通りです。今でも男性女性関係なく、新しい分野に分け入る「ファーストペンギン」は他の者と同じレベルでは前に進めない。


 前から何かあると「うちのパパとうちのママが並んだ時」と歌ってきた寅子ですが、その歌がこんなに活きるなんてなあ。してやられた、と思った今週ラストの金曜日でした。


 本当に面白い見ごたえのあるドラマですので、興味のある方は、よろしければ今日からでもご覧になってはいかがでしょうか。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る