ちりも積もればなんとやら

 今日は病院の日だったんですが、廊下で座って待っている時、こんな会話を耳にしました。


 その廊下はリハビリで歩く人や検査に行く人がよく通る場所なんですが、その会話をしていたのもおそらくリハビリのおばあさんと、その付き添いの若い男性スタッフだったと思います。じっと見てないし、通りがかっただけなのでよくは分かりませんが。

  

 若い医療スタッフが、付き添っているおばあさんにこんなことを言ってるのが左側から聞こえてきました。


「やめた方がええって、一ヶ月一万いくらいくら(他の音でよく聞こえなかった)やったら一年、十二ヶ月で考えたらいくらになる?」


 なんとなく孫がおばあちゃんに説教してるような口調で、それにおばあさんがこんな返事をしてました。


「それは計算したらそうなるやろけど、その時はそんなん考えへんねんて」


 このあたりまで話しながら私の前を通り過ぎて右へ進んでいきました。


 すると今度はスタッフの声が遠ざかりながらこんなことを言ってるのが聞こえました。


「それを60年と計算してみ、800万、家の一軒ぐらい」


 その先は聞こえなかったけど、家一軒ぐらい買えたとかなんとか言ったんじゃないのかな。


 何の話だろうと思いながら、ふと、


「あ、タバコかな」


 と、思い至りました。


 タバコって1つ600円ぐらい、一ヶ月に2カートン買うとすると12,000円ぐらい、それで計算してたんじゃないだろうか。


 確かに一ヶ月12,000円だと一年で144,000円。それを60年吸い続けたら8,640,000円! 確かに家を買うのにかなり助かるぐらいの金額を煙にしてるということになる。


 それで思い出した話があります。


 私の伯父、母の兄はすごく頭のいい人で、幼い頃からずっと勉強は学校で一番、そのまま旧帝大まで行った人で、バリバリの理系の人でした。

 その伯父さんはタバコを吸ってたんですが、その吸い方がめっちゃ理系。


「1日13本」

 

 吸う本数がそう決まってました。そしてその吸うタイミングも決まってる。

 よく覚えてはいないんですが、例えば朝起きて1本、朝食後1本、いついつ1本で最後に寝る前に1本。合計13本。


 その13本がどうしてかというと、こういうことでした。


「1日13本で30日では390本、31日の月もあるから一ヶ月に大体400本、2カートンでちょうどいい」


 らしいのです。


 私だったら今日はたくさん吸ったけど、明日は吸わないなんて日もできそうなんですが、伯父さんはそういう人でした。他にも色々そういうことをやってたなと思い出します。


 話は戻って、あのおばあさんも伯父さんと同じように月に2カートンぐらい買ってたので、それを医療スタッフがやめた方がいいと言ってたんじゃないかと思います。


 しかし、1つ600円、20本入りだから1本30円としても、何年も吸い続けたらそんな金額になるんですね。


 そしてそこまで考えてこんなことに気がついてしまいました。


「私はタバコ吸わないしお酒も飲まないのにその数百万がないのはなんでだ!」


 おかしい。

 その理屈だともっと貯金あっていいはずなのに。

 理不尽!


 母さん、僕のあのお金どうしたでせうね?

 そう、タバコも吸わず酒も飲まないのに谷底に落としたようなあのお金ですよ。

 あれは好きなお金でしたよ。


 思わずそうつぶやいてしまいます。

 

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