#30 お世話係は思考し嫌悪する
日曜日。
母上から近所の神社までお届け物のお使いを頼まれたので、神社まで一人で歩いて向かう。
神社は境内全体が大きな木々に覆われ日陰が多く、少し風が吹くと涼しかった。
本殿の裏に併設されているご住職の住居を訪ね、対応してくれた奥様へ挨拶をしてお届け物を渡した。
奥様が冷たい麦茶を出して下さったので頂いて、少しおしゃべりをした後、帰路についた。
神社からの帰り道、小学校の前で立ち止まり、誰も居ないプールを一人で眺めていた。
並々と水を満たしているプールは、真夏の太陽をキラキラと反射させて眩しかった。
僕は運動は苦手だが、なぜだか水泳だけは少し自信がある。
ただ、玲が泳ぐのが苦手でプールを怖がるので、今まで体育の授業以外でプールへ泳ぎに行くことは無かった。
そんなことを考えていると、言いようのない不安というか、心のどこかで何かが引っかかるような違和感を感じた。
時間はお昼に近づき日差しは強く、いい加減暑さに耐えられなくなってきたので、自宅へと向かって歩き出す。
帰宅後母上へお使いの報告を済ませ、母上が用意してくれていたそうめんを食べて、クーラーの効いた部屋で寝転がって涼むことにした。
寝転がって天井を見上げながら、先ほど感じた違和感について考えた。
久しぶりに玲が傍に居なくて寂しいから感じたのか?
そんなことは無いと思いたい。
いくらお向かいに住んでて四六時中一緒に居るからと言っても、毎日寝起きを共にしている訳では無いし。
ではなんだろうか、と思考を深める。
僕はプールに行きたいのか?
と考えたところで気が付いた。
プールに限らず、僕は自分のやりたいことを我慢しているのだ。
自分がやりたくても玲がやりたがらないと思うことは、無意識にそれを悟られないように笑顔で隠していたんだ。
だったら、と更に思考を進める。
もし、これから僕が玲よりも自分のことを優先して、好きなように過ごしたら玲はどうするのだろう?
僕がプールに行きたいと言えば付いて来てくれるだろうか?
僕が朝食はパンがいいと言えば、用意してくれるだろうか?
幼稚園の頃ならいざ知らず、今の玲だったら内心は嫌でも僕に付き合ってくれる気がする。
でも、と思考を振り返る。
以前僕は、自分の事よりも玲のことを優先して行動することを心に誓ったのだ。
なのに、どうして今更それに疑問を抱いてしまうのだろう?
判っている。
この違和感の正体は、僕は玲に不公平さを感じているんだ。
自分で決めたことなのに、それに不満を感じてしまっているんだ。
ここまで考えて、物凄い自己嫌悪に陥った。
玲に半日会わないだけで、ネガティブな思考に支配されてしまうなんて、情けない。
僕は、天井を見つめるのを止めてタオルケットを頭から被り、そのまま寝た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます