2話 こんなにうまく行っていいのかな?

 柔らかな風に包まれ、2度寝しそうになるけど草木の揺れる音で目が覚める。


「ん……ここは……草原?」


 だんだん脳が起きてきたわたしは自分の置かれている状況を思い出していった。


「そっか、本当に異世界に来ちゃったんだ……」


 口に出して再確認してみる、未だに信じられないけど目の前に広がる大草原が今まで居た日本の都会とは違う、別の場所だってことを実感させてくれた。

 ひとまず立ち上がって周囲を見渡すわたし、すると足元に大きめの袋があるのに気付いた。


「これ、なんだろ。何が入ってるのかな」


 袋を開けてみると金貨5枚、免許証のようなカード、そして数枚の紙が入っていた。

 まずは紙を見てみると『クリスちゃんのお役立ちアイテムだよ〜、異世界生活頑張ってね!』と書かれていた。

 そういえば役に立つアイテムを送ってくれるって言ってたっけ、ということはあの女の子はクリスちゃんって名前なのかな。そういえば名前を聞き忘れてたや。

 次の紙に目を通してみる。

「衣食住に困らないように1週間分位のお金を入れといたよ、それからは自分で稼いでね。冒険者ギルドで依頼を受けるのが一般的かな」

 やっぱり一緒に入ってた金貨はお金だったみたい、無一文で異世界に転移しても宿とかに困るだろうからこれは有難かった。

 3枚目の紙はカードのことについて書かれていた。

「一緒に入ってたカードは君が異世界に転移したという証明に使えるよ、身分証明書としてもバッチリだね」

 カードをしっかり見てみると、わたしの名前(水瀬薫)、性別、年齢、生年月日……まではいいんだけど何故か好きな食べ物や趣味まで書かれていた。

 身分証明にばっちり……? とつい思ってしまう。


「これは身分証明で使うなら必要な部分だけ見せるようにしなきゃ駄目かなぁ」


 そう思いながら最後の紙に目を通す、そこには魔法のことについて書かれていた。

「君にあげた治癒能力だけど、発動に大事なのはイメージだよ、それっぽい言葉で詠唱してみるのも効果的かもね」

 なるほど、今は怪我してる人は居ないから癒やしてあげれないけど呪文を決めておくってのは良いかも。


 「よしっ、これで袋の中身は全部かな」


 それじゃあ、まず人を見つけないといけないよね。幸いにも景色の先に街があるのが見えたからそこに向けて歩き出していく。

 わたしの異世界生活は、思っていたより順調に行きそうだった。


 1時間ほど歩いて、ようやく街の入り口付近まで辿り着いた。

 幸いにも魔物とは人畜無害そうなスライムぐらいしか出会わなかった、けど強そうな魔物と出会ってたら命は無かったのかも。

 なんて思いながら街の入り口に辿り着くと、守衛さんが立っていた、どうやらこちらに気がついたみたいで話しかけてきた。


「よう、嬢ちゃん。ここらでは見かけない顔だがどうしたんだい?」


 わたしは言葉を返そうとして一瞬考えた、異世界転移して来ましたって安易に言っちゃって良いのかな?

 けど身の上を話さなければ怪しまれるかなと思って言葉を返す。


「実はわたし、この世界じゃない別の世界から来た人間なんです。信じられないかも知れませんけど……」


 そう言うと、守衛の人は笑みを浮かべて言った。


「ああ、嬢ちゃんもか。ここ最近数カ月に1度ぐらいの割合で来るんだよ、別の世界から来ましたってやつが」


 良かった、話が通じるみたい。クリスちゃんから自動翻訳機能を貰ってるはずだけどこの世界の人に言葉が通じるか不安だったんだよね。

 ほっとしてたら守衛の人から言葉が続いた。


「それじゃあまずは冒険者ギルドに行くといい、ギルドカードを作れば身分証明にもなるし何はともあれ食い扶持を稼がなきゃあな。どれ、俺が案内してやるよ」

「いいんですか?その、守衛のお仕事とか……」

「ここらは大した魔物が出ねえからな、気楽なもんよ。大船に乗ったつもりで付いてきな!」


 こうしてわたしは守衛さんに連れられて冒険者ギルドへと向かうことになった。

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