第224話 のんびりデート1
224話 のんびりデート1
「わぁ! ねえ、ここって!!」
「うみしま水族館。サキ、行きたがってたろ?」
「えへへ、覚えててくれたんだ……」
営業開始五分前。思った以上に混んでいた駐車場に車を停めた俺たちは、水族館へと続く広い階段を登っていた。
もう八月も後半だが、思えば大学生に限らずまだこの時期は夏休み。小中学生やもっと小さい子供を連れたファミリー層がチケット売り場に行列を作っているようだ。
迂闊だったな。平日だからと少しナメていた。流石は大人気の水族館だ。恐るべし。
「やっぱり混んでるね。とりあえず並ぶ?」
「んや、大丈夫。こういうこともあろうかと」
スッ。俺がポケットから取り出して見せたスマホの画面に映っているのは、一つのQRコード。
「チケット、先にオンラインで買ってあるんだよ。これなら販売所に行かなくても簡単に入れるからな」
備えはしておくものだ。まあ本当のところは一秒でも長く水族館デートを楽しみたいからと買っておいたものだったのだが。結果的にこうして上手くいったのだから結果オーライだろう。
あくまで行列になっているのはチケット販売所の方のみ。そこでチケットを買った人は次に入場口の前の列へと流れていくわけだが、オンラインで事前にチケットを買っている人はその人達より前に入場することができる。
だから俺たちは悠々と列を素通りし、店員さんの指示に従って更にその前のオンラインチケットを購入した人専用列にいればいい。こんなことでなんて小さな男かと思うかもしれないが、なんだかVIP待遇のような感じがして優越感があるな、これ。
「もしかしてこのデート、結構前から企画してくれてたの?」
「おう。……って言いたいところだけど、思いついたのはつい昨日の話なんだよ。なんか無性にサキとデートしたくなって、急いで取った」
「へ〜。いつも面倒くさがりな和人さんが、私とデートするためならそこまで頑張ってくれるんだ」
「あ、当たり前だろ。というか面倒くさがりは余計だ」
「だって本当のことだも〜ん」
クスクスと揶揄い交じりに笑うサキの横顔が可愛くて、思わず頬が熱くなる。
「ねえ、和人」
「ん?」
「ありがと。……大好き」
「〜〜っ!?」
そしてあっという間に全身に広がった熱を感じ取ろうとするかのように。ぴとっ、と身を寄せたサキはそう呟くと、俺の右手を握った。
(可愛い……すぎだろぉ……っ!!)
俺の彼女さん、どうしてこんなに可愛いんですか。
幸せすぎる。こうやって手を繋いでいるだけで口角が上がって、意識して顔に力を入れていなければニヤけてしまいそうだ。
『お待たせいたしました! それではこれよりうみしま水族館、開館です!!』
「よぉし、行こ! 和人!」
「お、おっふ……」
メガホン越しに聞こえた店員さんの声を合図に他のお客さん達が入場を始めて、俺たちもその後に続く。
サキのはしゃぎ方はまるで子供のようだ。純粋で、本当に心の底から喜んでくれているのが伝わってきて……連れてきてよかったと、そう思える。
やっぱり俺の彼女さんは、今日も世界一可愛いな。
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