第222話 久しぶりに

222話 久しぶりに



「今日は久しぶりにデートをします」


「……ほぇ?」


 くぴくぴと朝イチの牛乳を飲む薄着のサキに、唐突に今日の予定を告げる。


「最近、二人でゆったりデートって出来てなかったろ。ほら、色々と忙しかったし」


 グループ結成の件、夕凪さんの勧誘、ご飯会に命名会議。


 ここ最近、サキはアヤカとしての活動がかなり忙しかった。だがある程度ひと段落がつき、おまけに今日は配信予定も無い。


 なら、デートするしかないだろう。


「ほんとに!? どこか連れて行ってくれるの!?」


「おう。なんなら行き先はもう決めてある」


 というか、俺がしたいのだ。


 お泊まりでーーーーとまではいかなくとも、レンタカーを借りてゆったりとした日帰りデートを。


 言った通り行き先は決めてある。前にサキとテレビのCMで見た場所だ。喜んでくれるといいのだが。


「出発は一時間後な。俺はパパッと用意して先にレンタカー屋さん行ってくる」


「は〜い!!」


 今の時刻は午前八時。目的地までは調べたところ車で一時間程度だから、ちょうど営業開始の十時あたりには辿り着くはず。


 早速十分ほどで支度を済ませ、家を出る。レンタカー屋さんには既に昨日のうちに電話をしておいた。最近は夏休み終盤シーズンということもあってかなり混み合っているそうだが、事前に車を一台取っておいてもらっている。スムーズに行けば十五分ほどでまたここに戻って来られるだろう。


 こういう時マイカーがあれば……とも思うんだけどな。このご時世、車は持っているだけでやれ税金だの駐車場だのでかなり出費が嵩む。平均的なーーーーいや、バイトすらしていない平均以下の大学生には夢のまた夢だな。


 まあ俺と違ってサキさんは柊アヤカとして得た収益をかなり貯めているらしいが。それには″将来″の費用としてできるだけ手をつけないようにと二人で約束した。


(……なんか改めて見ると、マジで俺ってぬるま湯に浸かってるんだな)


 し、しかしだな。今はサキを裏からしっかりと支えていけるようにスキルを磨いている途中だし? う、嘘じゃないからな!? マジでたまにミーさんにも教えてもらったりしてちゃんと勉強してるからな!?


 とにかく、だ。その事は一旦置いておこう。


 なんと言っても今日は久しぶりのゆったりデート。俺が楽しむ事はもちろんのこと、サキにもしっかりと日頃の疲れを癒してもらわないと。


「……よしっ」


 ぱちんっ、と両頬を同時に叩き、気合を込める。


 昨日のうちにある程度の準備は済ませ、プランも練った。サキなら絶対に喜んでくれる。だからーーーー


「目一杯頑張って……目一杯、楽しむぞ」


 俺も、一緒にとことん楽しんでやる。


 そう固く決意し、レンタカー屋さんに入って。カードやらなんやらの手続きをとっとと終わらせると、そのまま車を運転して店を後にした。


 返却日は指定していない。おそらく今日の晩になるかとは思うが、まあどこかで外泊する可能性もゼロじゃないからな。


「……」


 期待してるわけじゃない。別に期待なんてこれっぽっちもしてないけども。





……念のため、買っておくか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る