第209話 夕凪の本質

209話 夕凪の本質



「お、みんな来た来た〜! おつかれい〜」


「……ブン殴ってもいいですか? いいですよね分かりましたいきます」


「どうどうどう!! ミーさん待って!! いや気持ちは分かりますけども!!!」


 エレベーターから出た途端。店の入り口の向こうからゆる〜い表情とゆる〜い格好でこっちに手を振るアカネさんを見て目が赤く光ったミーさんを、俺とサキはなんとか二人がかりで押さえ込む。


「んもう、ミーちゃん何怒ってるのさあ。あんまりカリカリしてるとチューしちゃうよ?」


「アカネさん!? あなたミーさんとは長い付き合いなんですよね!? なあに的確に地雷踏み抜いてんすか!?」


 シャー、シャーッと毛を逆立てんばかりの勢いで息遣いが荒くなっていくミーさんにはキンキンに冷えているお冷を飲ませ、なんとか椅子には座らせたものの。いつ怒りで爆発してもおかしくない状況だ。


 そりゃそうだろう。今の状況は言わば営業まわりでヘトヘトになって帰ってきた部下に対し、上司がクーラーの効いた部屋でくつろいでいる姿を見せつけたようなもの。怒らないはずがない。


 だというのにこの人は。いやむしろそれが狙いか? ミーさんを怒らせて反応を楽しんでいるんじゃないだろうな?


「……驚いたな。あの子がミーちゃん、か。確かにアヤカの言ってたとおり美人さんだ。うえへへ……」


「ん……?」


 そんな中。ニッコニコなアカネさんの隣にひょっこりと顔を出していた謎の少女が何かを呟く。


 黒髪ショートの髪型に、幼なげな容姿。服装はクリーム色のパーカー一枚というシンプルなもので、整った顔立ちながらも俺たちと同年代には見えなかった。


(ロリッ子だ。ロリッ子がいる……)


 美人を見てメモを取りながら不気味にニヤけるロリッ子……なんともまあ濃ゆいキャラをしているのだろう。  


 だがそのキャラは、まさに俺の知っているあの人そのもの。


「あの、アカネさん。もしかしてその方が……?」


「そ。サキちゃん以外は全員初めましてだね。じゃあ早速自己紹介どうぞ!!」


 べべんっ。アカネさんが手をわしゃわしゃさせながら自己紹介を促す先で、ロリッ子さんはその平らな胸を張りながら言う。


「初めまして。イラストレーター兼Vtuberとして活動させてもらってる夕凪だ。一応柊アヤカのママでもある。よろしく」


 この人が、あの夕凪さんか。


 アカネさんとは違いVtuberの時の口調、性格がそのままな感じするな。当然Vとしての身体とは見た目は違うけれど。ーーーーいや、それも若干似てるか?


 アヤカもアカネさんもリアルと配信ではかなりキャラが変わるタイプだからなんか新鮮だ。こんなに配信の時のイメージそのままな人がいようとは。


「……で、早速で悪いんだが。一つ聞いてもいいか?」


「ん〜? どしたの。なんでも聞いて〜? これから一緒に活動していく仲だからね。今つけてる下着の色からスリーサイズまでなんでも教えちゃうぞ〜!!」


「そ、そんなことを聞きたいんじゃない! いや、まあそれは普通に興味あるから後で聞くけど……それとは別だ!」


 後で聞くのか。


 心の中でツッコミを入れた、その時。キッ、とまるで敵を見るかのような鋭い視線が突き刺さる。


「なんで……なんで男が一人混じってんだよ!!!」


「へっ……?」


 Vtuberにはそれぞれ作られたキャラ設定というものがある。


 陽キャだったり陰キャだったり、はたまたBL好きであったり百合好きであったり。


 そんな性格や趣味嗜好がリアルでもそうなのかは人によるだろう。しかし、少なくとも夕凪さんはおそらく配信の時とリアルで一切裏表が無いタイプ。


 つまり、本当のことなのだ。




ーーーーこの人の「極度な男嫌い」は。

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