第93話 誕生日デート10

93話 誕生日デート10



「わぁ、わぁっ! 見て和人!! ケーキがいっぱい!!!」


「おお、こりゃ凄いな……」


 とりあえず、と大きめのお皿を取ってスイーツの前に立ってみたはいいものの。種類が多すぎて、どれから食べたもんか。


 なんてことを考えながら悩んでいる俺を背に、サキはすぐに手を伸ばす。どうやら、初めはイチゴの乗ったシンプルなショートケーキから攻めるようだ。なんとも可愛らしい女の子らしいチョイス。


(さて、俺は……)


 全く同じものを選んでも仕方ないし、ケーキ以外から。俺のファーストチョイスはシュークリームに決定した。


 クリームの入ったかなり小粒のシュークリームを三つ乗せてから、次は隣のプリン。それとゼリーにモンブラン。


 少し取りすぎな気もしたが、一つ一つがケーキなんかとは比べてかなり小さめのサイズ設定になっているし、心配はいらないだろう。


「よし、こんなもんかな」


 一度スイーツを取るのをやめ、次は飲み物を選ぶ……つもりだったのだが。すぐ近くにいたはずのサキの姿がない。少し辺りを見渡すと、一度席へと戻っているようだった。


「サキー、飲み物、何が……い、ぃ?」


「バナナジュース! って、和人どうしたの? 変な物でも見るみたいな顔して」


 いい読みをしているな。まさにその通りだよサキさん。何? その山盛りな上に偏りまくりのケーキ群は。


「いや、なんだその取り方? ショートケーキに手を伸ばしたところまでは見てたけど……え? なんで六個もケーキ取ってきてショートとチョコの二種類なんだ?」


「……変?」


「変、ではないけども」


 なんというかこう、個性的な取り方だなと思った。というか最初からケーキ六個もいくって凄いな。それに二種類しか取ってないってことはまだまだ行く気満々だろうし。俺なんかよりよっぽど食いしん坊さんだ。


 俺の反応を見て少し不安そうにするサキを安心させてからバナナジュースとグレープジュースを入れた俺は、席へと戻り椅子に座る。その間も俺を待ってくれていた食いしん坊さんはもう涎を垂らしそうな勢いで理性と戦っていた。ごめんね、我慢させちゃったね。


「「いただきます!」」


◇◆◇◆


 ショートケーキ、チョコケーキ、チーズケーキ、ゼリー、モンブラン、杏仁豆腐、パンケーキ。


 これらを全て三切れ、または三個以上。一時間半でサキが食べた、スイーツの量である。


「ふぅ〜、いっぱい食べたぁ」


「本当にいっぱいだなぁ。俺の四、五倍は食べたんじゃないか?」


 俺がそう言うと、「まるで私が食いしん坊みたいじゃん」とサキは抗議の声をあげる。


 が、実際に食いしん坊だった。甘いものは別腹、なんて言葉があるが、いくら別腹の容量を使っても俺はそこまで食べられない。せめて普通のバイキングとかなら可能性はあるかもしれないが、全てがスイーツのここではそうはいかない。


「だって、普段から我慢してるんだもん。……最近、ちょっと体重増えちゃったから」


「そうなのか? 全然分からなかったけど」


「そ、そうやって和人が甘やかすからだよ!」


 数日に一回は同じ湯船に浸かっているわけだが、相変わらずサキの身体の線は細いように感じる。服の上からではなくバスタオル一枚越しに見てそれなわけだから、そこまで気にする必要はないと思うが……いや、これが甘やかしすぎってことなのか?


「まあ、このレベルの食べ方はするなよ。ただでさえ一個一個が砂糖の塊なんだからさ」


「当たり前だよ! ちゃんと、次連れてきてもらうときまでガマンする!」


「よしよし、いい子だ。ならまたちゃんと連れてきてやるよー」


 談笑しながらお会計を済ました俺たちは、店を出て飲食店街を抜ける。なんやかんやとしている間にそれなりにいい時間になってきたし、そろそろ帰らなきゃな。


 なんせ、明日からは温泉旅行が待ってるわけだし。


「さて、最後の目的地に行くかぁ」


「どこー?」


「お酒屋さんだよ。今日、帰ったら飲むんだろ?」


 サキも俺も二人揃って晴れて二十歳になったわけだし、本当ならサキだけは少し早く飲めたのだが、俺のために待ってくれていたからな。人生で初めて飲むお酒はちょっとばかり、贅沢しよう。


 あらかじめ目星をつけていた店をすぐに見つけ、中で俺たちは初めてのお酒コーナーをまわった。




 ビールにワイン、焼酎等々。様々な種類のお酒が立ち並ぶ店内で、四種類のお酒を購入。袋に入れると意外と重くて、サキが私も少し持つと申し出てくれたので、袋を二つに分けて手に持ち、もう片方の手はしっかりと繋いで。まだもう少し誕生日デートを堪能していたいな、なんて名残惜しく思いながらも、電車に乗って帰路についたのだった。

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