第61話 優子さんとお急ぎショッピング2
61話 優子さんとお急ぎショッピング2
それから、歩みを進めること数分。俺たちは額に汗を滲ませながら、小さなショッピングモールの前に着いていた。
「ここ、ですか。初めて来ました」
外観の印象は、少し子綺麗な近所の人用のショッピングモール。日常的な買い物とか、少し子供を遊ばせるためのゲーセンとか。そういった、わざわざ遠くから来るようなたいそうな場所ではなく、本当に近所の人だけが使うような場所。
「私は家がこの辺だから、昔からよく来てるんだぁ。なんかこう、最近できたモールとかよりもこっちの方が……落ち着くっていうか、ね」
意外だった。優子さんみたいなオシャレ大学生は、あまり大した用事などもなく大きなモールへと行くのが日常、ってイメージが俺の中にあったのだが。流石に偏見が過ぎただろうか。
「……って、早く行かなきゃなんだよね! ほら、入ろ入ろっ!」
「は、はい! そうですね!」
自動ではない、引き戸の入り口から店内へと入ると、よく効いている空調が俺たちの体温を下げていく。
入ってすぐのところはスーパーのようになっていて、食料品売り場と、ベンチ。ベンチの上には既に、おじいちゃんおばあちゃんが何人か座って、うたた寝をしながらくつろいでいた。
「あ、そだそだ。せっかく来たんだし、ジュース飲もうかな。ほら、あそこ」
「え? ああ、あれですか。なんか、お高そうな」
優子さんが指さした先にあったお店には、タピオカでも入っていそうなあのプラスチックの容器に入れられた、グレープジュースやオレンジジュース、りんごジュースなどのサンプル。すぐ隣がスーパーな作りもあってか、モールにも普通にありそうな店なのにやたらと高級感を感じる。
「お高くないよぉ。一番おっきいサイズでも、せいぜい200円くらいじゃないかな」
「え、安いですね。ああいうのって大体、小さいのでも200円は超えてきません?」
「そうなんだけどねぇ、ここは私が子供の時から、あの値段なんだよ。だから他のところだと、結構高く感じちゃうんだぁ」
ああ、それは分かる。だが、優子さんが言うのはなんというか、少し意外だった。特にそう感じた理由はないが。
「優子さん、奢りますよ。今日は付き合ってもらってますしね」
「本当に!? やったぁ!」
俺の言葉に笑顔を見せた優子さんと店の前に移動し、優子さんはりんごジュース、俺は少し変わり種でマスカットジュースを注文して受け取り、それをストローで飲んだ。
「ん〜、やっぱりりんごが原点にして頂点だよねぇ! 最高ッッ!!」
「マスカットも中々いけますよ。味が思ってたよりスッキリしてて、飲みやすいですっ」
「ふぅん? ねぇ、一口貰っても……って、あ。そういうの、しない方がいいかな?」
「え? ああ、俺は別に気にしませんよ? ……まあサキが隣にいたら、意地でも止めてきそうですが」
「ふふっ、なら貰っちゃお〜♪」
ちゅぅ〜、とマスカットジュースを吸い、コクコクと可愛く喉を鳴らす優子さん。どうやらりんごジュースをベタ褒めしていた割に、マスカットも案外イケたようだ。
「ふふっ、なんかこうしてると、私たちカップルみたいだね?」
「やめてくださいよ。サキの奴、親友に俺寝取られたって聞いたら泣いちゃいますよ? 泣いて欲しいな……え、泣いてくれますよね?」
「いや、何故それを私に聞く。心配しなくても、そんなこと私がしたらサキは一生家に引きこもって鬱を発症するに決まってるでしょ」
「はは、ははは……」
優子さんの口からそんなことを言われると、なんだか今自分がやってることがどれだけヤバいか分かるな。
当然俺にそんな気はないし、優子さんにもない。だけどサキに見つかったら……うん、終わりだ。
だってこれ、当事者の俺ですらデートみたいに感じるし。ただでさえ優子さん、美人なんだから。
「そういえば優子さん、彼氏とかいないんですか? 俺がサキにこの状況見られたらヤバいのはそうなんですけど、優子さんも彼氏さんに見られたら────」
「こらこら、何私が彼氏いる前提で進めてるの? いないよ、彼氏なんて……というかこれまでも、一度も……うぅ」
「えっ!? す、すみませんてっきり!」
あれ、なんかこの人可愛いな? もっとこう、恋愛沙汰とかにも凄く慣れていそうな感じがあったというのに、まさかの恋愛経験ゼロとは。サキと出会っていなかったら惚れてしまっていそうなシチュエーションだぞ。
「なんでサキが私より早く彼氏作ってるのぉ……っ! あの奥手で、男子への免疫もなくて友達だって私しかいなかったサキが……あぁっ!!」
「お、落ち着いて優子さん!」
「私も彼氏欲しいよぉぉぉぉぉお!!!」
あはは、優子さん……ただの恋に疎い、一人の乙女でした。
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