第36話 逆襲のアヤカ1

36話 逆襲のアヤカ1



『みんな、こんあやか〜♪ さてさて、今日はユリオカート配信! なんと、視聴者参加型でやりまーすっ!!』


:キチャーッッ!!


:自ら虐待されにいくスタイル、嫌いじゃないぜッ


:さーて、いっちょやりますか(^ω^)


『ふふふっ、それじゃあスマファザの時と同じようにルーム作るから、みんな入ってきてね』


 自信満々でそう言ってアヤカがルーム作成、次いでパスワードを流すと、一瞬で十二人のルームは埋まった。


 今回のパスワードは、『0704』。本人は時になんの変哲もない数字と言っていたが、俺の誕生日である。可愛いかよ……。


『お、すぐに埋まったねぇ。あ、アヤ虐係とかいうプレイヤーネームがいる!! 望むところだ!!』


 レースを始めるためのカウントダウンが始まり、アヤカは今まで行うことのなかったボタン長押しによる、スタートダッシュの準備を始める。


 ユリオカートでは、最初にこれを行うことによって、上手くいけば一瞬加速してスタートを切れる。失敗すればエンストしてしばらく動けなくなるというリスクも孕んでいるが、長押しを始めるタイミングは既にアヤカの身体が完璧に覚えているから問題はない。


『いけっ!!』


 ブィィィン、と爽快なエンジン音を響かせながら、アヤカは完璧なスタートダッシュを決めてトップに躍り出る。


 勿論まだ序盤の序盤だし、これで最終順位が確定するわけでは決してない。だが、一先ず第一段階としてはかなり良い滑り出しだ。


:あれ? アヤカちゃんが珍しく前にいる?


:おや、アヤカの様子が……?


:被弾祭りの予感ッッ!!


 ちなみに、一走目のステージは『JKジャングル』。ユリオカートの登場キャラ、ジャンキーコングをモチーフとしたステージであり、コース難易度としては中くらいといったところか。


 特に落下しそうなところが多いなどといった訳ではないのだが、その代わりにゴール前にショートカットが存在する。


 当然、普通の道を行くよりも難易度は高い。だがそれ故に、ここを通れるか通れないかで最後に逆転されてしまう可能性が非常に高い。失敗してコース外へ落下してしまったりすれば順位は激しく落ちてしまうが、そのリスクを差し置いてでも、挑戦しなければいけない。


『ふぅん、一位はアヤ虐係君かぁ。いいでしょう、君を倒して、裏で猛特訓した成果をみんなに見せてあげる!!』


 現在、アヤカは二位。一位との差はそれほどなく、いつでも逆転を狙える素晴らしい位置どりだ。後続もすぐ後ろから追いかけてきているが、まだ抜かれる気配はない。


:あれ? おかしいな。アヤカが二位を走ってる錯覚が見えるんだが……


:なんか上手くなってて草


:これ、もしかして相当裏で練習しまくってる?


 どうやら、リスナーたちもいつもとの違いに気づき始めているようだ。


 レースは一周目中盤。何度かこうらを飛ばされたりしたものの、アヤカはアイテムを駆使しそれらを全てブロック。未だ、被弾もコースアウトも無しで二位をキープし続けている。


「頑張れ……お前の力、見せつけてやれ!」


 ドリフトも、アイテム捌きも、全てが順調に進んでいる中で、ついに一周目は最終局面へ。ゴール前の、ショートカットである。


 今までのアヤカなら、迷わず少し遠回りになる安全な道を進んでいた。だが、今は違う。ショートカットをする実力も、度胸も。アヤカは確かに、新たな特訓の中で手に入れた。


『いっ、けぇぇぇぇ!!!』


 一位のアヤ虐係に続いて、ゴール前で分かれた二つの道のうち、より険しい方へ向かうための激しいドリフト。一つ操作を間違えればコースアウトする、難関の道。


 アヤカはそれを、成功させてみせたのだった。加えて、追い縋る後続へと向けたバナナを設置し、アヤカと同じようにショートカットを決めようとしたプレイヤーを、強制的にクラッシュさせていく。


『あははっ、見たかッ!! これが、アヤカの本気じゃぁぁぁぁいっ!!!』


:うぉぉ! 会心のバナナが決まった!!


:すげぇ、本当に上手くなってるのか!?


:なんか熱くなってきた!!


:あの、アヤカが……こんなにも、立派に成長して!!(親目線)


:このままアヤ虐係も倒しちまえ!!!


 リスナーが、熱狂の渦に呑み込まれていく。もう、虐められてただ台パンをしているだけのアヤカでは無いと、行動が示し続けている。


「いける! ちゃんと、通用してるぞ……!!」


『負けない! 絶対に、勝つッ!!』


 二周目、三周目とレースの終わりが近づいていく中で、グングンと一位との距離が縮まっていく。


 これには誰もが、逆転劇を期待し、胸躍らせた。


 だが────


『ピシャァァァァアッッ!!!』




 三周目、最後のショートカットが訪れる寸前。画面は光に包まれ、雷鳴が……鳴り響いたのである。

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