第25話 彼氏専用ASMR4
25話 彼氏専用ASMR4
何も見えない暗闇の中、胸元に当てられた柔らかな物の感覚と、耳元で微笑むアヤカの声だけが感じ取れる。モゾモゾと動いて俺の目に被せられている手を退けようとしたが、それはすぐに阻止されてしまった。
「あははっ。クロサキ君、必死でかわいいなぁ……♪」
「な、なんで目元塞ぐんだよ、アヤカ」
「えー? だってぇ……」
ふふっ、と俺を揶揄うように笑いながらアヤカはそう言って、ゆっくりと体制を変えていく。気づけば胸元にあったはずの感触は俺の方に移動し、先程散々撫で回したあの太ももが、俺の脚をガッチリと上からホールドしていた。
「この方がぁ、敏感に感じられるでしょ?」
見えていなくても分かる。俺の身体の上には今、アヤカが全身で覆い被さっており、完全に敷き物のようにされているのだ。
何よりやばいのは、やはり胸の感触。胸元にあった時は二つがそれぞれ平面に押し付けられていたのに対し、今は俺の腕を谷間に挟むようにしてから、全方面で刺激を加えてきている。
横から当てられていたのが上から押しつけられる形にもなって、その気持ちよさは桁違いだ。
「ほんと、クロサキ君は単純だね♪ 何も見えない状況で思いっきり押しつけられて……興奮、してるんでしょ?」
「そ、そんなことは────!」
「ふぅん。じゃあ、こういうことしても反応しないわけだ」
「っお!?」
ぐにゅぅぅ、むに、むにゅっ。
更に強く押しつけられたそれは、簡単に形を変えて俺を包み込み、肌の上を揺れ動く。まるで身体中を侵食されているかのようなその感覚には、思わず変な声を出さずにはいられなかった。
「へんたいさぁ〜んっ♪ 身体がぷるぷる震えてますよぉ〜?」
「こ、これASMRと関係あるのか!? 配信画面じゃ、こんなリアルな感触は誰も感じ取れないんだぞ!!」
「うん、そうだねっ♪ だからこの配信は……君、専用だよっ♡」
「っっ!! っっぅっ!!!」
目を開ければ、目の前にいるのはサキのはずなのに。俺の頭の中ではこの感触が全てアヤカから与えられた物へと脳内変換され、まるで本当に画面の中から出てきてくれたかのような気分だった。
視聴者みんなが一度は「こんな彼女がいたら……」なんて絶対に叶わない幻想を抱いてしまうVtuberという存在が、今目の前に現れ、そして本来なら触れることのできないはずの柔らかな身体を押し当てて俺を誘惑している。
こんなもの、興奮しないはずがない。
「さて、そろそろ耳かきもしていこうか。クロサキ君のよわよわなお耳、たっくさんほじほじしてあげるからね♪」
「お、おぉ……」
さわ、さわさわさわっ。
サキの時とは、少し違った手つき。最初から気持ちよくするのではなく、まずは焦らして。そんな心情を感じ取れる綿棒さばきで、耳への刺激が始まる。
もうさっきから、本当にサキとアヤカが同一人物なのか疑いたくなるほどだ。というか、アヤカは別に元々こういうSキャラではないんだけどな。このシチュエーションに加えてアヤカになったことで″積極性″が増したのがこうなった原因なのだろうか。
「どう、かな? 私の耳かき、気持ちいい……?」
「気持ちいいよ。でもできれば、もうちょっと強く……」
「なぁに? 聞こえないなぁ。ちゃんと大きな声で、私に聞こえるようにおねだりしてほしいなぁ〜♪」
普段はサキとそこまで性格の違いは無いはずなのに、暴走するとここまでになるのか。それに、こういうのも悪くないと思い始めている自分自身も少し怖い。
おねだり、か。本当なら絶対にしたくはないが、仕方ない。この天国を守るためなら、時にはプライドを捨てることも必要なのではないだろうか。うん、必要だ。必要な気がする。必要な気しかしない。
「さぁ、早く早くっ♪ 男の子なのに無様に女の子に媚びちゃえっ♡ 僕ではアヤカ様に敵いませんって、敗北宣言して気持ちよーくなろっ♡」
アヤカからの煽りを受け、屈辱的な感情を抱きながらも言葉を口にしようとした、その時。
「ん、んん……? ひ、ひっ────」
「え? ど、どうした?」
アヤカが、何やら違和感のある声を出しながら、少し身体を起こした。そして────
「へくちゅっ!」
その場で、可愛いくしゃみをした。……両手で、口を押さえながら。
その瞬間。俺の真っ暗な視界に光が戻り、顔を上げると、アヤカは姿を消し、俺の上に、世界一可愛い天使が現れる。
「ごめんごめんっ♪ じゃあ仕切り直して、敗北宣言、を……ぉっ!?」
「お、おはようサキ。えっと、敗北宣言がなんだって?」
「あ、あぁっ……あああぁぁっ! あぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
たわわな胸を揺らし、耳まで真っ赤にして我に返ったサキは自分がアヤカとして行った行動を頭の中でフラッシュバックさせ、身体を震わせる。
そして────
「んに゛ゃぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!」
その場で猫のような奇声を発しながら、リビングを去ったのだった。
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