第91話 目的地にて

言われた住所に行ってみると、細い山道を通った小高いところに、目的の家があった。


狭い道路の途中はみかんばたけ?ポンカンの畑が広がり横を小川が流れてたりして。

東雲さんの家は山の途中にあり、切り開かれた空間がぽっかりと突然現れる。

集落からかかなり上に来たとこなので、買い物とか不便そうだな、とか考えてしまうけれど。

私の家も似たようなものだったわ。


そこからは海が見下ろせ、山から集落、そして海という全体風景が見えてなかなかいい感じ。夕日とかも見えるのかな。


そんなことを考えながら、家の前に止めてある、軽自動車の隣にバイクを止めた。

砂利で覆われているので転けないようにセンタースタンドで立てる。荷物満載だからサイドスタンドだと不安だわ。


短い草で覆われた庭の向こうに木造の小さな平家が立っていて、裏手にはバナナの木とパパイヤの木そして、塀にはパッションフルーツが巻き付いている。


この辺、屋久島の街中でよく見かけてインパクトのあるフルーツだからすぐ見分けがつくようになってしまった。


いわゆる田舎にある平家。玄関も引き戸でガラガラしてるやつ。


玄関は青いタイルで覆われていて、家の下半分、基礎のところも青いタイルで覆われてる。

縁側は昔ながらのすりガラスのサッシ、アルミの色が剥き出しの懐かしさを感じる作り。

屋根は焦げ茶の金属で覆われていて、我が家と同じガルバリウムなのかな?

何かの煙突が裏に2本くらい立っていて、お風呂用?それと昔のトイレのあれっぽい感じがある。

浄化槽ついてるみたいだから汲み取りではないんだろうけど。


庭は広く草が低く生えてる、というか刈り込んであって家の周りがぽっかりと空間が開いたみたいになってて、北側は鬱蒼とした森に包まれている。

家の前にある道も、この東雲家から先はだんだん細くなっていて人通りもほとんどなさそうな気配になっているから、実質このみちはこの家専用になってるのかしら。

南側は開けているから太陽はよく当たりそう。

道路沿いの南側は周りをコンクリートの立派な塀で囲んでいて、これは台風対策なのかな。そこにパッションフルーツが巻き放題だから生垣っぽくも見えてしまう。


広さは私の家の庭の半分くらいかな。私のところが田んぼ1個分くらいあるから、その半分でも十分広いと思う。

外には石を積み上げた祠のようなものと、小さな池が存在している。

池には何かが住んでいるようだけど、姿がよく見えない


一通り観察して、本当に、ここにミュージシャンが住んでいるのか?

と疑問に思ったりして。


もっとアーティストっぽい家を想像してたもので。


意を決して扉の前に立ち、インターホンを鳴らそうとすると内側からドタドタと走る足音が聞こえてきて、ガラッと扉が開かれる


そして、何かが飛び出してきて、思い切り抱きしめられた


「よくきたわねー!」


ぎゅーっとしめてくる。ふと柑橘類の香りが漂う。


「思ったよりゴツい感じ!」


などといって体を弄るが、そりゃプロテクター入りのライダージャケット着てるんだからゴツゴツしているのはあたりまえ。

というかなにこの馴れ馴れしい距離感の人は。


顔の横には茶色のセミロングくらいの髪の毛、薄いセーターごしに感じる、お母さんより華奢な体躯、痩せてる女性が抱きついてきているのは理解できたが


「ごめんなさい、つい嬉しくていきなり抱きついちゃった。

なるほど、秋彦の娘って感じするね」


今度はさっと離れて私を上から下まで見ていく。

顔つきは40代とは見えないくらい若々しいというか生命力あふれる様子で目なんかキラキラしているし。

日本人てきな整った顔で、目つきは一重で切長、顔つきは長細いたまご顔って感じで、南国九州の彫りの深い感じではない。関東系の顔つき?

妹さんとはまた違う感じの美人って感じ。

この人の妹さんが20代後半にしか見えないとこを見ると、この家系は若く見えるのだろうか。プロフィールでは現在42歳くらいだったと思うけど。


身長は私と同じくらいなので女性にしては高い方なのだろうか。


「妹からも話聞いてたから、今日は楽しみにしてたの。

さ、上がって上がって」


私が話す隙を与えず、挨拶くらいしか喋ってないのだけれど、家の中に案内されていく。


ジャケットを脱いで玄関のとこにヘルメットと一緒に置いて、客間というか縁側の部屋に通される。

屋久杉の壺とか板みたいなのが置かれてて、根っことか丸い球とか、屋久杉を磨いたものも無造作に転がっている。

これは、磨いてる途中なのかな?紙やすりとか転がってるし。


そこにはちゃぶ台と、隣の部屋には何か仏壇ではない大きな祭壇のようなものが存在してた。何か神社の奥にあるような鏡も置いてあるけど?


ちゃぶ台前に座っていると、東雲さんがお茶を載せたお盆を持ってきた。


「わざわざ来てくれてありがとう、このまま誰も来ないなら、彼らも役割忘れてこのまま屋久島で過ごすとこだったから」


彼ら?ああ、多分「契約者」って言われてた人たちのことね。


「今日も、あなたがここに到着する前からワイワイ騒いでて、さっきは私の家に押しかけてきたんだから」


さっき?

私がくる前に契約者の人達が来たってことなのかしら。

ずっとここにいるわけではないのね。


私の前に湯呑みを置いて、そして自分もちゃぶ台のとこに座る。

お茶菓子が「屋久島せんべい」とかいうものだったけど、そんなお土産あるんだ。


「さて、秋彦のお姉さんの冬美さんから話は聞いてる。

早速会ってみる?」


いきなりそんな話をされてしまった。


「会ってみるって、契約者って人とですか?」


「? 契約者ってどんなものか冬美さんから聞いてないの?」


「いえ、屋久島で契約者に会っってから遺産について話しましょうとかいうことだけで。どんな人とか聞いてないです」


「ああ、本当に試されてるのね。

お父さんの仕事について、少し聞いた?」


「各地を回って竜を押さえたり何かしたりしてるという話は」


「私たちバンドメンバーもそれぞれそんな役割を持っててね、秋彦を中心に、私たちがサポートを行って、契約者は秋彦の仕事の重要なとこを手伝ってたのよ

それで、秋彦が海外いくときは私が預かってたの。彼らは日本から出ることできないから。

それでまさか、そのまま私が預かる事になろうとは思わなかったけど」


そう言って、秋子さんは少し寂しそうな表情を見せて。


「こんな仕事をしていると色々あるからね。海外だと契約者の力を借りられない分負担が大きかったのかも」


「父がやってたのは、そんな危険な仕事だったのですか?」


私が聞くと、秋子さんは


「いえ、契約者や私たちの助けがあるならそう危険ではないんだけど。アメリカでは自分だけで対処しないといけないから、それで問題が起こったみたいなの。

向こうの土地の神と折り合いがつかなかったのかな〜

この辺は、まだあなたがこっちの内容に詳しくなったら教えてあげられるけど。

とりあえず正式には病死という事になっているかな」


「病死ではないんですか?」


「病死よ、医学的にみると原因は病気以外にないもの。

ただ、まぁ見え方が違うと違うようにみえるというと。昔の人は病は呪いや穢れからくるもので、人間には祈るしかないってとこでしょ。

そちらからみると他の理由もあるという話」


何やら怪しい話が進んでいるような気が。


「父の仕事についても聞けるなら聞いてみたいのですが」


「私からはやめておく。契約者と合えばそっちから聞くことできるし、彼らの方が詳しいから。

それにしても、ほとんど知識なくて大丈夫かなぁ。

冬美さんが責任取ってくれるのかな?」


秋子さんは頭をぼりぼりとかいて。


「とりあえず、会ってみる?」


と聞かれたので、私はハイと答えた。


「じゃあ、ちょっとこっちに来て」


呼ばれたのは隣の部屋。

祭壇と鏡のある部屋で、祭壇には二つの鏡が置かれている。


「その左側の鏡の前に座って」


座布団が置いてあるので、その上に座る。


「私がこれからなんかするけど、気にしないでそのままいてね」


そ言われた途端に、秋子さんは手の指をたて、それを左右と縦に振り、空中に何かの形を書き出しているように見えた。


それは、映画とかアニメで見たことのある「印」と呼ばれるもののように見える。

手にジャラジャラなる何かを持っており、それを時折シャンシャンと鳴らしながら。


そして急にそれが収まると、何かが私の体から吸い込まれて、鏡の中に入っていくのが感じられた。


何?風のようなものが体を抜けていった感じする。


同時に向こうの部屋の襖が開く音が聞こえてきた。

あれ?だれか他に人がいたのかな?


「さて、部屋に戻るよ」


そう言われて、何が何やらよくわからないままちゃぶ台のある部屋に戻ると、そこには見知らぬ少年が。

灰色っぽい髪色に同じく灰色っぽい目。

日本人でも西洋人でもないシュッとした顔つき。ロシア系?

身につけている服は、白いシャツに黒いスラックスで学生服っぽいけど。

畳に直接正座して、茶菓子をぼりぼりと食べている。


「ちょっと、何食ってんのよ」


「久々の実体化はカロリーを食うんだ」


実体化?

それと、さっきの秋子さんの儀式っぽいのは何?

私の目がそう言っているのを感じ取ったのか、秋子さんが


「さっきの儀式は、マナになってたこいつを、さくらちゃんの気を塊にして核にして召喚したの。そのままだと霞みたいで認識できないから」


「僕のこの形は久々だよ。このまま屋久島の滝壺で水蒸気として生きていくことになるのかと思ってた。でも、さすが彼の娘だね、僕と相性ぴったりだ」


そう言いながら、まだせんべいを食べている。

何、この人。言ってることがよくわからない。


「契約者ってこいつなんだ、」


秋子さんの言葉に一瞬頭が真っ白になり


「は?」


と思わず声を出してしまう。


「よろしくお願いします」


その少年は爽やかな笑顔をこちらに向けせんべいを持ってない方の手をあげて挨拶してきた。

色々と思ってたものと違うので、認識がついてこない。

契約者ってお父さんの仕事仲間じゃないの?

霧、霞?目に見えない?

秋子さんの謎の儀式は?このアニメの主人公みたいな少年は何?


頭がフリーズして、ただ瞬きしかできなかった。











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