東京編 父の仕事とプロデューサーと

第39話 高いホテル

飛行機は10時ごろに到着し、会う予定の時間は13時。

「ちょっとこれからの予定だけど」


と言いながら、ヒナっちがスマホ片手に


「これから目黒行っても11時くらいには余裕だわ。でも荷物抱えて移動するのは面倒じゃない?」


まぁ確かに。

ゴロゴロしながら電車乗ったり乗り換えたりするのは大変な気がする。

そこで、ヒナっちの提案は一度品川プリンスホテルへ向かい、荷物をフロントに預けてから、少しカフェとかで時間潰して目的のところへ行こうということになった。

空港の到着口外にある椅子に座って話していたのだけれど、どうもヒナっちも一緒に話を聞きにくるつもりらしいのがわかった。

道案内だけじゃないの?


と聞いてみたら


「オズっちの境遇聞いたら、私も知りたくなったよー。別に私が一緒に行っても問題ないでしょ」


と言われてしまい。

別に隠すようなことでもないし。あとで内容を説明するくらいなら最初からその場にいてくれた方が楽だろうから。


「わかった、一緒にいこう」


と私が言うと、ぎゅっと笑顔で抱きしめられた。

身長は私の方が高いんだけどね。


私とはるなっちは全く右も左も分からないので、ヒナっちの案内についていくだけ。


羽田空港の下に長いエスカレーターで降りていくと、うどん屋とマックとモノレール乗り場が見えてきて、その先の方に電車に乗るとこがあるらしい。


「ここでPASMO買ってもいいけど、どうせならSuica買った方がいいから、まず品川まで切符買って」


と言われたが、なんのことやら。

切符を無事購入する。

が、みんな歩いている人たちは何かをかざして改札を抜けている。

田舎者でも切符を入れるとこくらいはわかるので、そうやって改札を抜けていくが、先を歩くヒナっちはスマホをかざしてそのまま通り抜けていった。


何、スマホで改札通れるの?


ホームで待っている間にその話をしてみると、スマホカバーを開いて一枚の緑色の、ペンギンのイラストが書いてあるカードを取り出して見せてくる。ピングーカード?


「これ、Suica使ってるから」


「スイカ?」


「植木の名産ではなくて、東京で使えるICカードのことよ。九州だとsugokaってのがあるんだけど見たことない?」


二人で首を横に振る。

そもそも、電車、汽車、どちらもあまり使ったことがないのだ。


「これにお金チャージしておくとどこでも乗れるしコンビニで買い物もできるし便利なの。今日明日だけかもしれないけど、品川でこれ買っておくと便利だよ」


ということで、品川駅でそれを買うというミッションが加わってしまった。

そもそも、電車というものに乗るのが滅多にないので、なんか新鮮である。それに、東京なので人が多く、並んでまで待つのがまた新鮮だ。


こ、これが「ホームでは二列で並んでください」というやつか。


電車が来るとアナウンスがあったので、ヒナっちを見ると、

「今なら次の品川まで直通のがあるから、それ乗った方がいいわよ」

と言われ。

電車には各駅停車と快速とか特急とか間の駅を飛ばしていくのがあるらしい。

何それ、でもお金同じなの?早く着く方がお高いのかと思ってた。


目的の電車が来たので乗り込むも、人が多いので立ったまま。

しかし、みんな静かだ。

話し声があまり聞こえない。あってもボソボソとした感じ。


電車の中で喋ったらいけない、といったルールがあるのかしら?

はるなっちも、周囲の雰囲気に呑まれて喋ったりしない。ヒナっちは乗った瞬間からスマホの画面ばかりを見ているし。


電車の中は孤独なのね。


いっとき地下を走っていた電車が地上に出ると、見渡す限り家しか見えない。

地平線の向こうまで家がある感じ。


東京って、こんなに人がいるんだ。


立ち並ぶマンションやアパート。


一軒家も隣がぎゅうぎゅうで、狭い範囲に密集している状態。

学校の校庭も小さく狭い。しかもグランドがゴムっぽい。


田舎の風景との違いに驚くばかり。

人間、どんなとこでも暮らしていけるものなのね。

多分、都会の人が見たら私たちの住んでるとこの方がそんな風に見られかねないのかもしれないけれど。


そして品川駅。


電車を降りると、人人人。

人の波に中に飲まれて進んでいるとヒナっちに手を掴まれ


「そっちは乗り換え、今はここで降りるのよ」

と言われる。

でもたくさんの人はあっちに行ってるけど?


「あっちは山手線に乗り換えるところ。京急はこっちから外に出るの」


乗り換えは一度駅をでてからするのではないの?

人の中に揉まれながら、気がつくと外に立っている自分に気づいた。改札を無事通過してたらしい。

駅の外も人だらけ。

目の前にでかい建物があったり車がたくさん走ってたり。


都会じゃ〜熊本市内より数十倍都会じゃ〜


心の中でそんなことを思っていると、ヒナっちがどんどん先に歩いていく。

あのはるなっちがほぼ無言でついて歩いているのも驚きだが、どうやら人があまりにも多すぎて気持ち悪くなっているらしい。

単に、電車良いではないの?


そしてプリンスホテルというとこに連れてこられたが、何しろでかい。

見上げるほどの高いビルディング、100メートル超える高さがあるらしく、熊本で見たことがないスケールだ。


「海抜で言うと瀬田あたりの高さかしら」


「いや、もっと立野よりよ」


と熊本の標高とこの建物の高さを比べてみたりする。

でも、私の住んでるとこは標高500mくらいあるから、勝ったわ。


ホテルが西とか東とかメインタワーとかなんか色々あって、自分が宿泊する建物を把握してないとダメらしい。

挙動不審だったのか、途中でホテルのお姉さんに捕まって、無事案内されフロントへ荷物を預けることができた。

「お荷物は部屋に入れておきますね」

なんてことを言ってくれる、さすが高そうなホテル。


「ここ水族館とかもあるわよ」


「ホテルに水族館!」


東京はすごかとこばい。






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