パライソウを探して ~生け贄にされたアースアイの旅~

薬原 星

【プロローグ】

 私の楽園…… 波羅葦増雲パライソウ

 私の愛してやまない故郷ふるさとであり、限りない恵みと慰めをもたらしてくれる大地。


 私は何としても、そこにたどり着き、楽園の平和を守らなければならない。

 そう、どうしても……



∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 コニーが幼児期を過ごしたのは、深い山奥にある古い家で、近くの家に行くのに10分以上はかかるような、田畑や山、森に囲まれた自然豊かな場所だった。


 家族は、両親と2人の兄(6つ年上のカランと3つ年上のパリス)達だ。


 コニーの初めての記憶は、いつぐらいだったろうか。

 両親に抱っこされたり、背中に背負われた時の温かい思い出。

 泣いている所を、根気よくなだめたりあやしたりしてくれている誰か。

 つたない歩みに合わせながら、手をつないで歩いてくれる兄達。


 少し大きくなると、両親や兄の後をついてまわり、やんちゃをしては怪我ばかりしていた。

 怪我をしたら、大抵は家に連れて帰られて、おもちゃをあてがわれ、部屋の中でおとなしく過ごすように諭されたものだ。

 部屋の中では物を壊しでもしない限り、ハチャメチャに転がって暴れようが、大声を出そうが、柱をよじ登ろうが、滅多に怒られることはなかった。

 

 コニーの家は裕福では無く、両親は朝から晩まで働き、兄達も時々畑仕事などを手伝っていた。

 しかし、家族は皆温厚で、めったに声を荒げることもなく、変化が乏しいとはいえ毎日は平穏にすぎていった。


 父は機械類の整備が専門らしく、時々町や村に仕事に行っては、お菓子などのお土産を買ってきてくれる。

 毎日がお腹いっぱいにご馳走を食べさせてもらえるわけではなかったけれど、飢えることはなかった。


 着せられる服は、兄たちのくたびれたお古ばかりとはいえ、清潔に洗われて継ぎはぎで補強されていて動きやすく、やんちゃをするにはもってこいで、寒さで辛い思いをすることもない。



 それは、とてもとても幸せな日々だった。



 コニーにとって不満があるとすれば、まずは、身体が弱く病気になりやすいので、よその人に会うことを禁止されていることだ。


 兄達と違い、学校に行くことも許可が出ず、親や兄と一緒でなければ、畑や山に行くのも制限されていた。

 めったに無いことだが、もし村の人が家にたずねてきたら、部屋の奥に隠れて出てこないようにと言い聞かされていた。


 また、髪は1~2カ月おきに短く切られ、染料で焦げ茶色に染められる。そうしないと、髪が弱って病気になるのだそうだ。

 外に出る時は、必ず目深に帽子をかぶり、目を保護するために薄い色がついたサングラスをかけさせられる。



 そんなコニーの平和な日常は、ある日突然終わりをつげた。



 兄のパリスといっしょにやや遠出をして遊んでいた所に、突然1台の飛行車がやってきた。


 飛行車の人達は、最初は周囲の様子を尋ねるだけだったが、ふいに1人の女がコニーに着目し、素早く拘束すると、無理矢理帽子とサングラスを剥ぎ取った。


「こんな所に変異種が隠れていたとわね。連れて帰るわよ」


 数人の大人に対して、2人の子どもだけでは、喧嘩の相手にもならない。

 助けを呼ぶ間もなく、警笛もすぐに取り上げられた。


「こっちは兄弟か。一緒に連れて行くか?」

 男が抵抗する兄にも手を伸ばそうとする。


 コニーはその時、かつてないほどの全身の力と意思をこめて、思い切り叫んだ。

「兄さんに触るなー!!」


 その場はシンと静まりかえり、皆が一瞬動作を止める。


 ふと我に返った男達は、急に兄に興味を無くしたようで、コニーだけをさっさと車に押し込むと、そのまま連れ去った。


 「コニー!! コニーを返せ!!」

 泣き叫ぶ兄の声が悲しく響いているのを聞きながら、コニーは意識が遠くなっていくのを感じた。



 気が付いた時には、聞いたこともない街の、大きな神殿に到着していた。


 これからはここで暮らし、御神体に様々な奉納を捧げる巫子として過ごすようにと、拐ってきた大人たちに勝手に決められたのだ。



 7歳を少し過ぎたその日から、コニーの巫子としての神殿での日々が始まった。

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