第49話  デュエドラの時代……キてるわこれ

「そんじゃ行くか。地下二階!」


 ソニアの治療を終えた俺達はすぐに地下二階を目指す。

 幸い異形もネズミも、他のモンスターにも出くわすことなく階段にたどり着くことができた。

 水滴と、足音だけが階段の中に響いていた。


「ネズミキングがいるなら地下二階だよなあ……」


 地下三階からはネズミが姿を現さないこと、鼠の王の彫像の存在。

 そこら辺考慮すると全ての元凶は地下二階にあるとしか思えなかった。

 何よりも瘴気が肌を這い回る感覚が地下二階に近づくに連れて強くなってきている。 

 やはり地下二階は特に空気が淀んでいる。このフロアが鼠の王の棲家だと肌が言っていた。

 そんな敏感肌プルプル状態の俺の背中に声が掛けられる。

 

「ね、ねえちょっとアイザック。話があるんだけど」

「あん? なんだよベルティーナ」


 振り向くと声の主はベルティーナだった。

 迷宮内は暗く、見えないがベルティーナの顔は紅潮しているようにも見えた。

 瘴気に当てられているのか鼠の縄張りに侵入している現状に緊張しているのか?


「あ、あのさ。アイザックあんたさ。聖女様とカードゲームしたって言ってたじゃない? 本当?」

「んあ? ああリーゼッテのことか。おおやったやった。もうマジ最高のデュエルだったぜ」


 なんだ? ベルティーナは昨日のデュエルを聞きたかったのか?

 お前そういうの興味ないってスタンスじゃなかったっけ?


「ふ、ふーん……楽しかったんだ……」

「おお楽しかったぜ。 俺が規律正しき見張りに剣を装備させてさ、さあこっから! って時にリーゼッテの奴心盗む女盗賊を召喚してさ! 剣ごと奪われちまったんだよ! そんでな!」

「あ、いや、その。内容は別にどうでもいいっていうか……」

「最初はクレリックのデッキだと思ったんだよ! ほら! だって聖女じゃん!? そしたら途中で盗賊出すんだからさ、俺は驚いたね。国を代表する聖女様が盗賊を使ってるんだぜ!?」

「そ、そう。リーゼッテ様が盗賊を……ってそうじゃなくて……」

「だけど対人経験が浅かったんだろうか詰めが甘かった。俺がザルディンを出した所をもう一度女盗賊で奪おうとした所を兜でガードよ!」

「わかったから! 逆転したのはわかったから! 楽しかったのはわかったから!」

「まあとにかくすげえ楽しかったよ。また今度遊ぼうって約束もしたよ。あれ? したっけな? まあとにかくまた遊びてえなリーゼッテとは」

「ふーん……また遊ぼうって誘ったんだ……へー……ふーん……」


 ベルティーナはつまらなそうな表情で杖の先端をコンコン指で叩く。

 なんなんだ? お前が聞いてきたことなのになんでそんな微妙な表情を浮かべるんだ?


「火吹酒と魔法使い亭に泊まってるからいつでも来てくれって伝えたんだ。部屋で一緒にデュエル&ドラゴンズ出来たら楽しいだろうな~」

「あ、あんた部屋に誘ったの!?」

「え? おお。聖女様ってことで周りの目も気になるだろうしな。だもんで俺の部屋なら楽しめるよって」

「そ、そ、そ、そうなんだあ~。ヘ~……」


 よく見るとベルティーナの口元とこめかみがピクピクしていた。

 なんだ? 俺がリーゼッテとデュエルしたことに何か思う所でもあるのかベルティーナのやつ


「ね、ねえアイザック」

「なんよ?」

「あ、あんたがやってるそのカードゲーム? その、なんていうの? ほ、ほらダンシング&トゥナイトだっけ?」

「デュエル&ドラゴンズです」

「そ、そう! わ、私もその、ちょっとやってみてもいいかな~なんて思ったりしないこともないことも? ないんだけど?」

「え? え!? なになになに!? ベルティーナお前デュエドラ興味あるん!?」


 モジモジしながらこちらをベルティーナが上目遣いで見つめてくる。

 なんてこった! まさかこんなすぐ近くにデュエドラ新規参入検討者がいたとは夢にも思わなかった!

 嬉しい! めちゃくちゃ嬉しいよ!


「ま、まあ? あんたがそんなに毎日楽しい楽しいって言うもんだからさ。す、少しは? 試しに? やってみてもいいかな、なんて……」

「うおおおおおおおおおお!!!」

「きゃっ!? ちょっと! アイザック!? なになになに!?」


 あまりの嬉しさに思わず上げてしまった大声に驚いたベルティーナが身をビクンと震わせる。


「す、すまん! つい叫んじまった……めちゃくちゃ嬉しくてな!」

「さ、叫ぶ程嬉しいことでもないでしょ……大袈裟よ」

「そんなことない! そんなことないぞベルティーナ! 俺達の界隈は常に新規参入者を待ちわびているんだ!」

「そ、そうなの?」

「まだまだ”これからのジャンル”だからなデュエドラは。俺らみたいな奴らは興味持ってくれる人が出てくるのが一番嬉しいんだよ」


 新規参入者が気持ちよく『このゲーム楽しい! もっと入れ込みたい!』という気にさせるのが俺達既存プレイヤーの使命なのだ。

 そして教えるべきはルールでも強いデッキでもカードでもない。『楽しさ』を教えることが最優先なのだ。

 何が強いだとか何が流行りだとか。そんなものは二の次だ。楽しくなければゲームじゃないからな。

 ベルティーナには何のデッキがしっくり来るかなあ~やっぱりウィザードデッキかな。でもエルフデッキもいいなあ

 おっと、俺の主観が入ってしまってたな。まずは本人が気になるカードを主軸にデッキを組まないとな。

 ああ~夢が広がりまくるぜ。


「で、でもちょっと興味持たれただけでそんなに嬉しいものなの?」

「お前だからこそ特に嬉しいんだよ俺は」

「なっ……! 何を!? 何を言ってるのよあんた!」


 一緒にパーティ組んでる仲間が自分と同じ趣味を持っている。これ以上に素晴らしいことはない!

 迷宮に潜らない日なんかはず~っと一緒に遊ぶこともできる。こんなに嬉しいことはないね


「休みの日に丸一日一緒に遊んだりもしたいな!」

「ま、丸一日一緒!?」

「今度一緒にショップ行こうぜ。そんで遊んでさ、飯食ってさ。きっと楽しいぜ」

「そ、それってあんた、デートじゃ……」

「ん? どしたんよ?」

「い、いや、ななななんでもないわ。じゃ、じゃあ今度お店行きましょ」

「おう! 約束だな」

「や、約束ね。そ、それじゃこの話はまた今度ね」

 

 ベルティーナは緊張したような面持ちでこちらを見つめていたがすぐに視線を逸らして再び後列に戻っていった。

 いつだって新しい趣味に足を踏み入れる時は緊張するもんだからな。しゃーなししゃーなし。

 いや~しかし嬉しいなあ! まさかベルティーナがデュエドラに興味を持つとは!

 美容とお見合いパーティしか興味ないと思ってたから意外だったなあ。

 リーゼッテといいベルティーナといい。女性のデュエドラプレイヤー進出が来ているのかもしれない。

 今度の世界大会で更に盛り上がるといいんだがな。

 そんな夢心地の気分で階段を降りていると身に這い寄る瘴気が一段と濃くなってきた。

 おっとこりゃあ、気を入れ替えないとな。


「さて、ようやくついたか。地下二階……うへえ」


 二階に降り立った俺達を迎えてくれたのは相変わらず不気味な大蛇の死骸だ。

 骨しか残っていないその死骸を見ると食べきれずに食品廃棄ばかりの人間もここは見習うべきだな。

 っとそれは置いといて、相変わらず地下二階の雰囲気は異様だ。

 階段の下から伝わってくる瘴気がここから湧いてきているのだからそれも当然か。

 さあいっちょ気合入れて見つけるぞ! 鼠の王!

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