第17話 六人パーティ初戦闘
「押忍! 改めてよろしくっス先輩方! 自分”総合!”格闘家のソニアっス!」
ソニアは俺たちに向かって大きく頭を下げる。総合の称号はどうしても譲れないらしい。
「デュランスって言います。こんなナリだがクレリックです。俺もこいつもレベル1ですけどなるべく足を引っ張らないよう気合いれてくんで宜しくお願いします!」
デュランスは俺たちに突っ張った前髪を突きつけながら礼をする。
改めて見るとデュランスの髪は威圧感が半端じゃない!
いざって時はモンスターが怯んでくれる可能性もありそうだな。うん。きっと怯む。
やや緊張しているであろう新人の二人に対してギフンが髭をいじりながら口を開く。
「そんなつまらんこと気にせんでええわい。大人の足を引っ張るのは若者の特権じゃからな。今のうちにいっぱい甘えてその後強くなればええわい」
ソニアもデュランスもギフンの気遣いが伝わったのか緊張がほぐれたようだ。
表情も柔らかくなっている。
ギフンの奴……ガキだった頃の俺にも同じこと言ってたよな。
ああそうだ。ギフンの言う通り今度は俺達がこいつらを。デュランスとソニアを見ていかないとな。
つっても俺もレベル1だけど……まあなんとかなるなる!
「あ、あの、ベルティーナの姉さん!」
「え? え? な、何かしら?」
お?どしたどした。ソニアがおずおずとベルティーナの前へ躍り出てきた。
指を絡ませて顔を真っ赤にしながらモジモジしている。明らかに様子がおかしいぞ。
「自分! ベルティーナ姉さんみたいなかっこいいエルフに憧れてて! エルフ学ばさせて頂きたいッス!」
突然のソニアのカミングアウトだった。
”エルフ学ばさせて頂きたい”なんてフレーズ。そんなの俺初めて聞いたよ。
ベルティーナはというと
「え? ちょっとちょっと~。かっこいいエルフってそんな、そんなことないわよ~。ソニアちゃんこそ肌綺麗だし羨ましいわ~。大分若く見えるけどソニアちゃんは何歳なの?」
満更でもねえなこの298歳。
「自分十六歳ッス! まだ若輩者ですがよろしくお願いするッス!」
「十六歳……若いわねえ。いい?ソニアちゃん。200歳過ぎた辺りからすぐにパートナーを意識した方がいいわよ。こいつらみたいな『僕たち迷宮が実家です!』なんて奴らに振り回されちゃダメ! 気づいたらあっという間にアラウンド300歳だから! ね!?」
「よ、よくわかんないけどわかったっス」
誰が実家が迷宮だ。指刺すな指刺すな。
お前こそ俺やオスカー以上の迷宮ドハマリエルフだろうが。
「敵4体! 四足歩行じゃない。二足歩行。音が軽い……ゴブリンだね」
突然オスカーが俺たちに用心を呼びかける。
ゴブリンか。
「俺、ギフン、ソニアが前衛! デュランス、ベルティーナ、オスカーが後衛。俺たち前衛に何かあったらデュランス。お前が前に出ろ!
「了解ですアイザックの旦那!」
「ソニア! 前衛より敵の数が多い時は関節技禁止! 打撃を使え!」
「りょ、了解っス!」
デュランスがメイスの握りを確かめ、ソニアが両手を頭の高さまで持ち上げて構えを取る。
クレリックは神聖呪文や回復呪文が唱えられるだけでなくいざという時前衛を張れるのも頼もしいな。
ソニアは……ひとまず乱戦で関節技はやめさせよう。隙だらけで危険すぎる。タイマン特化にも程があるな。
「ギイィ!」
部屋になだれ込んでくる緑の影が四体。やはりゴブリンだ。戦闘開始!
「チェェストォ!」
出会い頭にギフンが刀を振るう。先頭を走るゴブリンに鋭い一撃が見舞われた。
「ギャィ!」
「まずは一匹真っ二つじゃい!」
ギフンが一体仕留めてくれた。だが今回は相手が怯む様子が全くない。油断は禁物だ。
俺も盾を構えてゴブリンへ突進する。
「ハァ!」
「ギッ!」
盾でゴブリンの顎をアッパーカット気味に殴りつける。顎が上がり、無防備になった喉をロングソードで突き刺す。残り二体
左からゴブリンの棍棒が振り下ろされる。しまった! 盾を攻撃に使うべきではなかったか。盾を持った左腕は未だアッパーカットの体勢のままだ。
防御が間に合わない。肩で受けるしかない。
被弾を覚悟したその時。
俺とゴブリンの間に割り込んだソニアが片手でゴブリンの右腕を。もう片方の手でレザーアーマーの襟元を掴んでいた。
掴んだままソニアはゴブリンに背を向ける。ソニアがゴブリンを背負い、ゴブリンがソニアに背負われる形だ。
「でいやあああああッス!!」
背負われたゴブリンがフワリと浮かび、ソニアの腰を起点に大きな弧を描いていた。
ソニアはゴブリンを背負って投げたのだ。
このまま背中を地面に叩きつければ大きなダメージを与えることが出来るだろう。その時だ。
「ギッギギィ!」
「わ、わわわわっ!」
そうはさせじとソニアの背中でゴブリンが暴れだしたのだ。
投げの形が崩されたソニアはゴブリンと同じタイミングで地面へ転がり込んでしまった。
「ギッ!」
危ない! 倒れたソニアの頭に向かって残りの一匹が棍棒を両手で振り下ろそうとしていた。
間に合え! ソニアとゴブリンの間に割り込み振り下ろしを盾で受ける。
「ぬぅっ!」
なんとか棍棒とソニアの間に盾を割り込ませる事ができた。
棍棒の衝撃が盾を通して左腕に伝わってくる。
「
「ギャイイイイイイ!!」
目の前のゴブリンが炎に包まれる。ベルティーナの火矢だ。
その刹那、俺はソニアの横で倒れ込んでいる最後の一匹のゴブリンにロングソードを突き刺す。
残りは……いないな。ひとまず勝利だ。
「ソニア助かったよ。まさかあんな投げ技まで使えるとはな」
「こちらこそ助かったっスアイザックさん! でもあんなゴブリン一匹まともに投げられないなんてまだまだ未熟っス! 」
ソニアが笑顔を浮かべて俺に頭を下げてきた。
状況は限定されるだろうが、うまく活用すればソニアの格闘術は俺達の大きな武器になるかもしれない。
これから何回か戦って彼女の能力を完全に把握しなければ。
「
デュランスが安堵の表情を浮かべる。ソニアが怪我しないかハラハラしていたのだろう。
もしもの時のクレリックの出番も必要なく、俺達はゴブリン四体に対してなんとか無傷で勝つことが出来た。
あれ? 結構このパーティやれんじゃん!? 強いのでは!?
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