第10話 コーセイ取引商店

”いつも公正! コーセイ取引商店!”


 店先に堂々と立て置かれている看板を尻目に店のドアを開く。

 言うほど公正か? 結構足元見てくるんだけどなあここ……


「お邪魔しま~っす。ようコーセイ」


 カウンター内では店長のコーセイがつまらなそうに本を読んでいた。

 目だけをこちらにチラリと向ける。せめて頭を向けろ頭を。


「あ~久しぶりですねアイザックさん。 買取りです?」


 コーセイ取引商店店長のコーセイ。

 相当裕福な商人の出自らしく昔から甘やかされて育った男だ。

 騎士になりたいのでフルプレートメイルとグレートソードが欲しいと親にねだって買ってもらったその次の日、

 吟遊詩人になりたいからリュートを買ってくれと親にねだるような、そんな坊っちゃんだ。

 散々の放蕩生活に親から呆れられ、この店で財を成すまで帰ってきてはいけないと家から追い出された結果、今ここでつまらなそうに座っているわけだ。

 もちろん本人に見返してやろうとか大儲けしてやろうだなんて気は一切ない。つまり勝ち組ってこった!


「逆逆~。色々入用でさあ。物色させてもらうぞー」

「あ~はいはい。どうぞご自由に~」


 店内の売り物を見て回る。マジックアイテムは見るまでもない。

 今の俺にマジックアイテムは不要! どうせ使えないもん。

 既製品や量産品で掘り出し物を見つけるしかない。


「なあコーセイ。レベル1でも振りやすくてそれでいて切れ味のいい剣はないか? 両手じゃなくて片手で持つつもりだ」


 まず優先すべきは扱いやすさだ。実際俺も素人時代に分不相応な武器をイキって装備したはいいものの

 まったくその性能を引き出せなかった経験がある。俗に言う「武器に振り回される」って奴だな。

 武器はしっかり振れてなんぼ! これが俺の十年以上の冒険者経験から導き出した答えだった。

 どうだコーセイ! あるか!? 


「そこになければないですね」


 コーセイはページを捲りながら答える。


「そうか……ないか……」


 武器よりもまずは盾の方が大事かもしれないな。今の俺の戦闘能力は素人レベルだ。

 まず敵の方が俺より先に攻撃することになるだろう。弱者が先手必勝を狙うと大抵ロクでもない結果になるもんなんだ。

 だからこそのしっかり受けきってからの反撃スタイルで戦うことになる。それなら……


「なあコーセイ、軽めで弾きバッシュがしやすい盾はないか? カウンターに寄せている盾が欲しいんだ」

「そこになければないですね」


 コーセイはページを捲りながら答える。


「そうか……ないか……」


 ちょっと待った。それよりも鎧だ鎧。俺が装備していたプレートアーマーもマジックアイテムだ。

 クリスのいただき

 高僧クリスが祝福を授けたその板金鎧は炎、雷、氷の威力を大きく軽減することができる。

 今まで敵のブレスや属性魔法はあまり考慮する必要がなかったがこれからは話が違う。

 迷宮には特に炎を扱うモンスターが多い。

 クリスの頂ほどでなくとも炎に耐性のある鎧をつけなければ致命的なダメージを受けてしまうことになるだろう


「なあコーセイ、炎、氷、雷に耐性のある鎧はないか? それもマジックアイテムでないのが条件だ。 最悪防げるのは炎だけでも構わない」

「そこになければないですね」


 コーセイはページを捲りながら答える。


「そうか……ないか……ってふざけんなコーセイてめえ!!」


 怒りからカウンターを両手で叩きつける。


「”そこになければない”はやめろって前も言ったよな!? 客はな! あれ言われるとすげえ悲しくなるんだよ! いいから持ってきてくれよ。なんかあんだろ?」

「んも~めんどくさいなあ……今いい所なんですけど」


 コーセイはブツクサ言いながらも立ち上がり、店の棚をかき回しはじめた。

 その数分後、カウンターの上に剣、盾、鎧が置かれていた。


「ふぁいアイザックさん。まずはこれ。ロングソード。ノーマル品なんですけどね、これ東方のカタナの製法を混ぜてて普通よりも軽めで結構切れ味もいいんですよ」


 剣を握る。なるほど。

 確かに軽さと鋭さを兼ね備えている。体重を乗せればそれなりの攻撃力も期待できそうだ。

 何よりマジックアイテムじゃないのが素晴らしい。


「次にこれ。ヒーターシールド。この前金に困ったボンボン騎士が売ってきた掘り出し物。縁の部分に鋼を使ってるから見た目以上に防御力は高いと思うんですよ」


 盾を拳で軽く叩いて感触を確かめる。確かに鋼を使っていた。

 これならパリィでも防御でもどちらでも対応できそうだ。それに縁で殴るだけでかなりのダメージを与えられそうだ。

 マジックアイテムじゃない。合格。


「最後にハーフプレートアーマー。これはただの量産品なんですけどね、防御力より動きやすさ重点なんです。だもんで、炎とかは避けてください。それとシールドでなんとかって感じですね」

「炎の耐性があるわけじゃないのか?」

「マジックアイテムじゃなくて魔法や炎を弾ける鎧なんて俺の知ってる限りないですよ。なら避けるしかないですね」

「むう……」


 炎の耐性は出来る限り用意したかったが、確かにそれは贅沢ってものか。


「助かったよコーセイ。これ全部買わせてもらう。いくらだ?」

「アイザックさんにはお世話になってますし……うーん、金貨百枚のところ九十五枚でいいッスよ」

「うーん……ちょい高いけど五枚割引はありがたいな。早速包んでくれ」


 レベル20の頃は実入りも大きく、あまり金勘定に神経質にならずにすんでいたが今の俺はレベル1。

 収入も大きく下がるだろうし元々なけなしの貯金を切り崩していくことになる。

 残る貯金は金貨で7000枚程度。まだまだ余裕はあるだろうが節約できる所は出来る限り節約していかなくてはならない。

 すでに戦いは始まっているのだから。


毎度マイダッリ。それでこれは誰かのプレゼントですか?」


購入した一式を袋に詰めながらコーセイが聞いてくる


「まあ、そんなもんだ」


 レベル1になったことは出来る限り控えておいた方がいいだろうとはオスカーの提案だ。

 確かに無駄な面倒が増えるだけだ。


「それよ、り……っと。アイザックさん。かなりのレアモノ入ったんですよ。見てもらえます?」

「ん~? つってもあまり無駄遣いはできないぞ? それに俺今はマジックアイテム求めてねえし」

「まあまあそう言わずに。これなんですけどね」


 そう言いながらコーセイは俺の前に一枚のカードを差し出す

 そのカードにはこう書かれていた。”偉大なる守護者ザルディン”と


「ザ、ザルディン!? ザルディンじゃないか!? よくこんなレアカードを仕入れることができたもんだな!」

「いや~偶然も偶然。言っとくけどこれ現物限りですよ? 在庫なしの一品物です」

「いくらだ!?」

「金貨6800枚ですね」

「安い! 買った!」


毎度マイダッリ

「いや助かったよコーセイ。本当助かったよ!」


 コーセイに満面の笑みを浮かべて礼を言わせて頂く。

 デュエル&ドラゴンズのレアカード”偉大なる守護者ザルディン”

 俺のデッキに欠けていたキーパーツの一つだ。

 まさかザルディンが手に入るとは……!夢にも思わなかった。


「いやぁこちらこそ。これめちゃくちゃ強いですからね。ザルディン」

「毎ターンパワー4の兵士を生み出すとかザルディン強すぎるだろ……恐ろしいわ。末恐ろしいわ」

「こんなの使われるとこりゃますますアイザックさんに離されちゃうなあ僕」

「ハッハッハ。まあ頑張り給えよコーセイ君」


 コーセイから装備一式。それと”偉大なる守護者ザルディン”を受け取り店を出たときにはすでに夕焼けが街を赤く照らしはじめていた。

 明日の朝には再びあいつらと迷宮を潜ることになるだろう。

 レベル1の素人同然のパーティとして。

 だけど俺に不安はなかった。なぜなら今の俺には”偉大なる守護者ザルディン”がついているのだから。

 さあ明日に備えて今日は早く寝よう。そうしよう!

 火吹酒と魔法使い亭へ向かう足取りはやけに軽かった。

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