第8話 動機
「潜る? レベル1のクソザコパーティで一階をまた一から?」
「一って言い過ぎよあんた。アイザック」
俺はオスカーの提案に面食らってしまった。
正直レベル1になってしまった時点で冒険者引退しようかなって思ってたからあ俺。
十五歳で冒険者の道を歩み始めたわけだけどさ、あの頃は若さがあった。勢いがあった。恐怖を知らなかった。
だけど今はその逆だ。昔考えなしに出来てたことも今じゃあ躊躇しちゃうだろうし。
俺でもそう思ったんだ。だから俺より賢いオスカーが再び迷宮に潜ると提案したのは本当に驚いたよ。
だがオスカーの顔は至って真面目だ。
「実はまだみんなに伝えてない情報があってね」
「情報? オスカーどういうことじゃ?」
「他にレベルドレイン被害を受けた冒険者がいないか確かめにギルドに向かった時の話なんだ」
「確かめたけど結局他の冒険者は無事だったんだよな」
「その時他の冒険者達が話してたんだ。”迷宮の構造が一変している”と」
オスカーは酔っ払っているわけじゃないようだ。至ってシラフで物申しているみたいだ。
俺はオスカーのエールを奪い取り一口飲む。
「おいオスカー。それはどういうことだ? 文字通りか?」
「ああ。文字通りだ。迷宮の構造。出現モンスターの傾向。宝。何もかも昨日までと全く様変わりしてしまっているんだ」
オスカーが俺のエールを奪い取ろうとこちらに手を伸ばす。俺は奪い取られないようにしながら聞き返す。
「俺たちがレベル1になったのと同じタイミングで迷宮が変わった……?」
「アイザック、これはワシみたいなアホでも……ング……何か、奇妙な縁を感じるわい」
ギフンが俺の手からエールを奪い取り飲み干しながら真顔になる。
「そうなんだ。このレベルドレイン現象と迷宮は繋がっ、すいませーん! エールもう一杯追加お願いしまーす! 繋がっているんだ」
オスカーがエールの追加を注文するやいなやすぐに給仕が持ってきてくれた。
確かにこれは臭い! 実に臭い! 俺たちがレベル1になったと同時に迷宮が様変わりだと!?
迷宮の構造が変わるなんてこと事態俺は今まで見たことも聞いたこともなかった。
それと同時にある朝起きたらレベルが1になっていた。これも初めての事態だ。
ありえないことが同じタイミングで発生するなんて裏で繋がっているとしか思えない。
「確かに…確かにオスカーの言う通りこれはどう考えても……すいませーん!こっちもエールお願いしまーす! どう考えても怪しい」
「生まれ変わった迷宮とクソザコに生まれ変わったワシら。こんなの関係ないわけ、すまーん! こっちにエールとチーズ! 一ずつ! ……関係ないわな!」
ギフンもやはり俺と同じ結論に至っていた。
「そうね。 レベルドレインの謎は迷宮に眠っていると考えても、こっちにホットワインと羊の香草焼きお願ーい! よく焼きで! よく焼き!」
「それに君たちはそれぞれ迷宮に潜る動機もあるんじゃないかな? ギフン。君には二つあるよね? ムラマサとマジック調理器具さ」
オスカーがフォークで突き刺した腸詰めをギフンに向ける。
「ム、それは……」
あー。まだムラマサ見つかってなかったのかギフン。
全ての侍が欲してやまないとされている最強のカタナ「ムラマサ」
その格に見合った侍が一度振れば山も、海も、雲も両断できると言われているほどの伝説のマジックウェポンだ。
ギフンは元々ムラマサを探すために俺たちのパーティに入ったのだ。
しかし何年も迷宮に潜ってもムラマサは見つからずに侍の国、東方で文献を漁るために俺たちのパーティから抜けたのだ。
思えばギフンの脱退がパーティ解散のきっかけだったっけな。
あれから数年。ギフンどころか誰もムラマサを見つけたという話を聞いていない。本当にあるのかも怪しい所だ。
「それにレベル1になったのなら君の秘蔵のマジック調理器具も全部使えなくなってるんじゃないのかな? ギフン」
「それなんじゃよ……圧縮窯も瞬間凍結棚も全部駄目になってるんじゃよ!」
「え? ギフンあんたそれじゃ凍結棚の食品も全部駄目になっちゃってるじゃない。うわあかわいそう」
「そうなんじゃよ……あの超絶便利な棚はレベル15以上じゃないと使えないんじゃよ! あれがなきゃワシの人生お先真っ暗じゃあ!」
ギフンは涙を浮かべながらテーブルに突っ伏す。
ムラマサの時より真剣な表情じゃねえか!
「そう。ギフンはムラマサ捜索とマジック調理器具を再び使える為にも迷宮に潜る必要があるんだ。ベルティーナは……うん、まあうん。レベル15に……その、ならなきゃだもんね?」
うん、まあうん。そうだな。レベル15にならなきゃだもんね。うん……うん。
「……何よ? アイザックあんたなんか文句あるの?」
「いえ、何でもないです…」
目をそらしエールを一口煽る。
「ギフンもベルティーナも潜る理由があるのはわかったよオスカー」
「だろう。だからアイザック。君もどうだい?」
「つってもなあ。俺はもう引退がチラついてるんだよ。確かに俺のレベルを吸い取った奴? いるならだけどな。そいつには落とし前つけてやりたいとは思うけどさあ」
ギフンもベルティーナも人生掛かってるレベルで深刻な状況だ。
オスカーはオスカーで潜らなきゃいけない使命というか義務か。義務だな。うん。義務がある。
けど俺は正直、”もういい頃合いなのかもな”くらいまで行っちゃってるんだよなあ。
皆よりも焚べる薪の量が少ないんだよ。
また一から頑張るのもなあ~ってな感じだ。だってレベル20から1だぜ? やる気無くすわあ~。
そんな表情の俺に向かってオスカーはニヤリと笑う。
「いいのかいアイザック。今度のデュエル&ドラゴンズ世界大会の開催地がアールンド王国、それも僕らが住んでいるこの街、コースフィンに決まったんだよ?」
「え? 嘘? マジで? デュエドラ世界大会……ここでやるの?」
俺はオスカーの言葉に耳を疑った。
え? やだ嘘? え? え?
「え、やだあんたまだあのくだらない変なカードにハマってるの?」
「アイザック……ワシも人のことは言えんけど、生活を崩してまでハマるのは健全とは言えんぞ……」
怪訝な表情をベルティーナもギフンも浮かべていた。だがそんなことはどうでもいい。
何もかもどうでもいいんだ。
「ウッソだろおい! デュエル&ドラゴンズの世界大会! ここで!? 」
「ああ。確かな情報筋から手に入れたネタだ。確実だ。デッキを強化しないといけないんじゃないのかな? その為には何かと入用になるんじゃないかな? なあアイザック」
オスカーはニヤニヤしながらフォークに突き刺した腸詰めを俺に向ける。
嬉しさでレベルドレインの悲しさなどどこかに吹き飛んでしまったみたいだった。
ついさっきまでは世界がくすんで見えた。
だが今はどうだ。全てが鮮やかに見える。こんなに世界は美しかったんだ! 俺には戦う理由があったんだ!
俺の心の炉に薪がドンドン焚べられてきましたよ!
「はい! ファイターレベル1アイザック! 迷宮に潜らせていただきます! 若輩者ではありますが皆さんよろしくお願いします!」
「若輩って……二十五歳じゃろアイザックお前……」
「ねえアイザック。あんたそのデュ……デュなんとかなんてもうやめたら? なんかよくわかんないトランプみたいなものでしょ?」
「は? ベルティーナベルティーナベルティーナ……なあベルティーナお前ベルティーナ~。お前何もわかってない! わかってないことすらわかってねえよ!」
ベルティーナの無礼な提案に俺は頭に血が登ってしまった。
これはもうデュエドラの素晴らしさをわからせるしかなかった!
「いいかベルティーナ! デュエル&ドラゴンズはなあ! デュエル&ドラゴンズはなあ! ああ! よし、俺が一から説明してやる!!」
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