第30話 ネクロマンサーの走馬灯
「な……貴様。急になにをバカげたことを言っているんだ」
父上が明らかに動揺している。父上は間違いなくなにかを隠している。ここは1つカマをかけてみよう。
「僕はもう自分の出自が特殊なことを知っています。僕は父上と母上の間にできた子供ではないのですよね?」
「バカなことを言うな。貴様は私の子だ」僕は父上にそう言って欲しかった。僕の考えていることがただの邪推に過ぎずに嘘であって欲しかった。
「貴様はどこまで知ってるんだ……?」
その言葉に僕は酷くショックを受けた。どこまで知っている……その発言の裏には僕の出自に関する秘密を父上が握っているってことだ。
「まあいい。順を追って説明してやる。貴様は恐らく私の子だ。決定的な証拠はないが……十中八九、私と血が繋がっていると考えてもいいだろう」
「父上とは血が繋がっている……? じゃあ母上とは」
「わざわざ問いただすまでもないだろう。貴様は私と魔族の女との間に生まれた子供だ。貴様の母親の名はカイーナ。母さんには内緒にして欲しいのだけれど、男を惑わす魔性の女だった。今でも彼女の元を離れたのが惜しく感じる時もある」
なに言ってんだこの既婚者は……堂々とそのカイーナとかいう女に未練たらたらであると告白するだなんて。
「それって浮気ってことですか!?」
「違う。カイーナと交わったのは母さんと婚約する前だ。浮気には当たらない……16年前……私は3人の仲間と共に旅をしていた。聖騎士ラッド、狂戦士マーク。竜騎士マスター。その旅の過程で1人の行き倒れている女を発見した。それがエドガー。貴様の本当の母親のカイーナだ」
ラッド、マーク、マスター。全員聞いたことがない名前だ。
「私は必死にカイーナを介抱した。思えばそこに多少の下心があったのかもしれない。エドガー。貴様も男ならわかるだろう? カイーナも私のことを気に入ってくれたのか、私たちはすぐに恋仲になった。その当時はカイーナの正体が魔族であることも知らずに……」
父上は淡々と事実を語っていく。
「やがてカイーナが妊娠をした。明らかに腹が大きくなっていたからわかった。私は動揺した。私には正式に婚約はしてないが、恋人がいた。ほんの出来心の遊びのつもりだったが、子供が妊娠したという事実が怖かった。この子供が私の幸せの全てを壊してしまうんじゃないかと」
随分と勝手な物言いだ。恋人がいるのに勝手に他の女に手を出しておいて被害者ぶる。救えない屑だ。
「私は……怖くなって逃げ出した。そして、2度と旅には出ずに今の母さんと結婚して、地盤を固めるつもりだった……そんな時、お前が来たのだ。まだ生後数ヶ月の赤ん坊の貴様が1人でだ。そして、私に向かって『パパ』などと宣ったのだ! この赤ん坊が私とカイーナの間の子だとすぐに悟った。悟った私は、私はその赤ん坊を山へと捨てた。だが、翌日……貴様はそれでも戻ってきたのだ!『パパ』という言葉と共に」
父上は頭を抑えている。
「その時ハッキリわかったのだ。生後数ヶ月の赤ん坊が喋れるわけがない。1人で父親の元まで来れるわけがない。これは人間の成長スピードではない。明らかに魔族のそれだと。その時、私はカイーナが魔族であると気づいてしまったのだ」
「その……カイーナさんは今どこに……」
僕はそのカイーナという人物に会いたくなった。自分の本当の母さんかもしれなに人物。彼女に会って真実を訊きたい。
「さあな。ラッド、マーク、マスター。やつらの足跡を追う方が簡単だろう。あいつら3人も私と同じようにカイーナのことを知っている」
「その人たちは今どこに……」
「知らん。もう十数年も連絡を取っていないのだからな」
「父上……僕は、この家を出て行こうと思います。自分のルーツがなんなのか……それを知るための旅に出たいのです」
「フン。やっと家を出ていく気になったか
よくもまあ自分が手を出した女に対してそんな蔑称を使えたものだ。僕は心底この男を軽蔑する。もう父親などとは思わない。相手も僕のことを息子だなんて思ってないだろう。あの男にとっての息子とは、僕が母親だと思い込んでいた相手との間にできた子だけだ。僕にとっては腹違いの弟と妹。精々、クズに愛されているといいさ。
「今までお世話になりました」
それから3年の月日が流れた。僕は、ラッド、マーク、マスターという人物を探して回った。その過程でネクロマンサーのスキルを強化するために各地の死霊を集めて回った。旅をするならやはり護身用にある程度強くなくてはならない。
「ひ、ひい。なんだこいつ……魔術師じゃなかったのか」
ならず者の騎士が狼狽している。こいつが何の騎士系のスキルを持っているのかは知らない。けれど、僕にはこいつなんかよりもスキルを鍛え上げた猛者の魂を自身に宿している。そう簡単に負けるわけがない。
「死ね」
僕は容赦なくならず者の首を刎ねた。悪いことしているとは思わない。だって、僕は半分魔族なのだから。魔族は人間に迫害されて根絶やしにされた。だったら人間に同じことをして何が悪い。僕を悪だと断ずるなら、僕の同胞に残虐なことをした人間は更に酷い悪だ。
「スキル見習い騎士……ハズレだな」
ほとんどの騎士系の能力を使える見習い騎士。聖騎士にも守護騎士にも竜騎士の技を使えるが、そのほとんどが中途半端に終わってしまう。技の習得がそれぞれのスキルに比べて圧倒的に遅いのだ。正に器用貧乏の死にスキル。僕の死霊ストックに入れておく価値はない。僕はこのならず者の魂を天へと還した。
「いやあ、お見事。流石に強いですね」
僕の背後から拍手をする音が聞こえた。年頃的には僕の元父親と同じくらいだろうか。
「あなたは?」
「私は聖騎士ラッド。あなたを18年間探し続けた者です」
「ラッド……まさか、あの男の知り合いだった……」
「あの男が誰を指すのかは知りませんが、恐らく正解でしょう。カイーナの長男さん」
「カイーナ……やっぱり、僕が探していたラッドだ。教えてくれラッド。そのカイーナという人物はどこにいる。僕の母親なんだ。会って話がしたい」
「カイーナはあなたにお会いしません。なぜなら彼女は出産でエネルギーを使って休眠状態になりましたから。次に目を覚ますのは5年先か10年先か……わかりません。魔族の女性は気まぐれですからね」
「出産でエネルギーを使った……? それに僕のことをカイーナの長男と言った。ということは、カイーナの子供はまだ他にもいるのか?」
「ええ。そうです。あなたは第一子。その後もカイーナは人間の男性と交わり、子供を設けました。その数15人。あなたには14人の兄弟がいるのです」
なんてこった。僕はただ本当の母親に会えるだけで良かった。だけど、僕にはまだまだ家族がいっぱいいることがわかった。なんだろう。この気持ち。嬉しいのか? 魔族の仲間がこんなにいるだなんて。
「あなたの兄弟の中には私の娘もいます。あなたの妹の父親が私だけど、私はあなたの父親ではない。なんだか複雑な関係ですね」
「ラッド。カイーナに会えないのならせめて、下の弟や妹に会いたい。彼らはどこにいる?」
「それでしたら、次の集会をお待ちください。魔族の血を引くものとその父親による集会……それは新月の度に行われます。次の新月は3日後ですね。丁度いいタイミングです」
3日後――その時にやっと会える。僕の求めていた。本当の家族に――
その……時が……たのし……
◇
血なまぐさい臭いがする。俺があの力を使って目覚めた後、決まってする嫌な臭い。俺の視界に入ってきたのは、腕を欠損して心臓を貫かれているエドガーの姿だった。
俺は勝ったんだ。けどまた殺してしまった。何度殺しても慣れるものではない。人を殺してしまった罪悪感。それとは裏腹に力が漲ってくる感覚。俺はまた強くなってしまった。望まぬ力を手にしてしまった。
エドガー、マーク、ラッド。この3人が落ちたことにより、ほとんど野盗を撃退できたようなものだろう。流石にあの3人を倒した俺に逆らう気がある奴がいるとは思えない。
とりあえずこの酒場の倉庫から出よう。今後のことをどうするのか考えなくちゃいけない。リーサに俺の正体がバレてしまったしな。恐らく、俺もこの開拓地村にはもう住めないだろう。
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