通電!!電気殺しの死体
わざわざサインを残すということは、何らかの方法によってこの死体が二人に見つかるように仕向けているということ。疑わしいのは死体を連れてきたシジマだが、Dr.ウランに協力する理由がない。
「ふうむ…。Dr.ウランも気になるが、それ以上の謎は彼が本当に死体なのかというところだな。」
「触れた限りでは心臓は動いてないわよ。脳波は調べてみないと分からないから、今機械を持ってくるわね」
心臓だけではない、呼吸をしている様子も無ければ、脈拍も無く、眼球の動きを見ても、生きている人間の反応とは思えない。しかし、彼の体には魔力が巡っている。Dr.ウランの魔術痕跡かとも思ったが、魔術式に残された魔力と、彼の体内を通る魔力では、純度や質が違う。
酒や不摂生な生活でぼろぼろになっている臓器を庇っているためか、魔力の質の劣化が著しい。また、日常的に魔力を発散させる習慣がないことと相まって、奥底の魔力がよどんでいた。魔術師であれば間違いなくそんな事態にはならないため、Dr.ウランの魔力が残っているだけというわけではないだろう。
「持ってきたわよ。脳波測定器。ちょっとどいて…」
細い管を男の頭に付けていく。独特な配色の吸盤がエレクルの額についているのを眺めていると、Dr.シンスは困惑したような声を上げた。
「おかしいわね。電源が入らないわ。」
「お前がたまに言う、電気不足って奴じゃないのか?」
「バカ言わないでよ。超電磁砲を打った直後に電子レンジを使うのならまだしも、昼間電気を使う用事なんてほとんどないわ。それに、電源がつかないのは、電力不足ってわけじゃなさそうなのよ」
電気だとか機械についての知識が全くないレンドが役に立つはずもなく。脳波測定器の配線や機器不良をチェックしているシルヴァを横目にエレクルの体に触れる。
Dr.ウランの魔術に抵抗した痕跡はなく、意図しない魔術に晒されると、自動的に発動するはずの対抗魔術を使用した形跡もない。つまりは彼はDr.ウランを受け入れていたということ。
「Dr.マギカ。ちょっと電気室を見てくるわ。」
「わかった。こっちも調べておく。」
本来は建物にしか使われない絶縁魔術。それを人に行使することはどれだけの影響があるのだろうかと思案する。要所要所を人でも耐えきれるように書き換えているとはいえ、何が起こるか判断もつかない。
「いや、
ため息ついでに、事情を説明するために処置室から出ていく。診療所の玄関前では、シジマがどこかに電話をかけているようだ。
「アレ…繋がんねえな…。って、充電切れ…。そんなに使ったかな?」
首を傾げながら院内に戻ってくると、充電器と電話を貸すように求めてくる。が、あいにく機械音痴のレンドはスマホなんてものを持ち合わせていない。
「充電器ってこれじゃないのか?」
「ああ…愛Phoneじゃなくてアントロイドの充電器。無い?」
そういわれても、彼には違いが判らなかった。シジマは仕方なさげにため息をついた後、診療所に備え付けられている電話の子機を持ち上げる。どこかの番号打とうとしているが、反応しないらしい。
ふと、レンドを見上げて尋ねようとしたが、ゆっくりと目を逸らしシルヴァの居場所を聞いた。
「シンス先生、アントロイドの充電器と電話を貸しくれ。」
「ちょっと待って…。電気室の調子がおかしくて、それどころじゃないの。」
機械工作中に使うゴーグルを装着しながら、白衣ではなく作業着姿のシルヴァがやってくる。手には工具が握られており、軽く髪を纏める姿はさながら工業美人といった風貌だ。指輪を傷つけないためか、はたまた合理のためか、白い軍手をつけており、その上からナットを指に嵌めている。
彼女が何の気なしに静電気除去装置に触れると、膝から崩れ落ちた。それはまるで、静電気と共に命を吸い取られていくかのような倒れ方であり、機械に疎いレンドでも異常事態であることは察せた。
「ゴルディア、シルヴァの様子がおかしい!!」
診療所内のどこかにいるであろうシルヴァ自慢の発明品を呼ぶも、反応が返ってこない。今日はクロムがスズの面倒を見ると言っていたことから、ゴルディアが診療所にいないはずがないのだ。
シルヴァの手首をつかむと、徐々に脈拍は落ちていく。
「ど、どういうことだ…」
「もしかしてドクター。ゴルディアってのは、そこに転がっている鉄くずの事か…?」
シジマの指さす方向を見てみれば、プロペラの付いた球体は無様に床に墜落している。魔術で引き寄せ様子を見てみると、画面上にはバッテリー切れの文字が書かれていた。
普段ならば電池残量がなくなる前に警告を発したり、自分から充電器に向かうこの機械が、こんな風に倒れているだなんて初めての出来事だ。
困惑している最中でも、どんどんシルヴァの呼吸は浅くなっており、刻一刻と死に近づいている。彼女が最後に触れた、静電気除去装置から離れるようにシジマに厳命すると彼は大人しく従う。彼なりに事の重大さは理解しているのだろう。
「シルヴァの機械に魔術反応はない。外傷も無ければ原因も不明。向こうの患者と一緒だな」
「ドクター、落ち着いてるな。何とかなりそうか?」
「いいや全く…。だが、必ず何とかしてみせるさ。たとえ俺が機械音痴で完璧には程遠いとしても、俺が扱う魔術は超一流だからな!!」
これ以上シルヴァをそのままにしておけば、いずれ心停止するだろう。彼女が作った『AED』という非常時用の心臓マッサージ機はあるが、彼には使い方がわからない。
そこまで難しい装置ではないためシジマでも使えるのだが、今この場にいる医者は、自称世界一の魔術医なのだ。彼に任せた方が効率的である。
「嫌がるかもしれないが、魔術で延命するぞ!!心室の円環。代償は我が魔力。魔術師の血涙。震えろ!!」
ドン!!と派手な衝撃がシルヴァの体を揺らす。なんとか心臓だけは動いているようだが、意識を取り戻す様子はない。だが、ひとまず原因を探る時間は生まれた。
「見せてやるよ。完璧な魔術師の才能ってやつを!!」
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