盲目!!暗心病
話を聞き終えたDr.マギカがメモを書き終える。シルヴァも同じようにカルテを書き終えたようだ。
「なるほど。事情はわかった。端的に言うと魔術をかけられている状態なわけだから、すぐに解除はできる。」
「魔術が怖いというのなら、強制的に魔術を壊す
振り返る2人の顔つきは、能面のように冷たく、姿も知らぬDr.ウランへの憎悪で溢れていた。ただ、それを患者に悟らせてしまうほど馬鹿な訳では無い。
「治るのならどっちでもいいです。」
「ちなみに、治療費とかって……」
解除魔術は特別な媒体を必要とせず、知識があれば魔力を持っていない人間でもできるほどだ。対して機械は動かすにも燃料が必要になる。金のかからない方、と考えると魔術ならば初診料程度で済ませられる。
「ああ、それと。Dr.ウランが『暗心病』と呼んでいたな。それはあくまで、暗闇の中でしか動けなくなるだけで、暗所恐怖症を克服した訳では無い。もしそちらも治したいと思うのなら、ここでカウンセリングを受けることをおすすめする。」
「機械にせよ、魔術にせよ、そのヤブ医者みたいにはならないわよ。それだけは誓える」
ダンケルとカーラが顔を見合せ、
「少し考えさせてください」と言った。
「Dr.ウランか……。ダンケルに仕込まれた魔術と、未知のウイルスに含まれる魔術が一致している。明らかに繋がりがあるだろう。」
「隠蔽をする気も無いってことが、より不気味ね。」
「……私お茶持ってくる?」
気を利かせたスズが部屋から退出すると、入れ替わるようにクロムとゴルディアがやってきた。微かな隙間から漏れた光を浴びたダンケルの腕は硬直し、カーラが痛ましそうな目を向けている。
「カーラさん。必ず治しますから安心してください」
「は、はい。」
励まされたことによる感涙か、あるいは無表情のDr.シンスが怖かったのか。目を逸らしてダンケルの手を握る。
「先生。機械で、治してもらっていいですか。」
「わかったわ。すぐに準備をするからまってて。スズ、お茶出しが終わったら第三治療室のカギを開けておいて。」
「ハーイ」
ダンケル達が案内された部屋には、普通の医療ベットに拘束具がつけられていた。痛みを伴うような処置ではないが、うっかり動いてしまうと、魔術ではなく患者そのものを壊しかねないからだ。
どんな魔術であっても壊せるという仕様上、出力が高くなってしまうのは致し方ない。
「何度も言うけれど、動かないでね。Dr.マギカ、魔術の監視は出来てる。」
「ああ、大丈夫だ。何かあったらすぐに止める。」
魔術はがしは、魔術師から見れば最悪の代物。当然、この機械への対策魔術も考案されている。だからこそ、魔術師同伴でなければこの処置は行えないのだ。さらに言えば、Dr.マギカの手には緊急停止ボタンが持たされており、何かあった際には強制的に止めるのだ。
Dr.ウランの魔術はダンケルの目と目の間、いわゆる鼻根に仕掛けられており、その周囲を特別なレーザー光線で焼くことで魔力を断ち切る。出力開始の合図とともに、ダンケルは瞬きを禁じられた。
「はい、もう一回いきますよ。3。2。1。ハイ、目を瞑って…。はい、開いていいですよ」
声にトーンが乗らぬまま、淡々と告げる。
三回目に差し掛かったところでDr.マギカが声を上げる。
バチン!!と電源の切れる音が響いて、思わずダンケルは起き上がった。目元のみの施術だったため、両手両足の拘束を外していたのだ。
「動くな!!」
「どうしたの…。私たちは魔術が読めないんだから説明して!!」
カーラが不安そうな声を漏らして崩れ落ちた。咄嗟にスズが彼女を抱きしめて慰めるも、あまり効果があるようには見えない。変わらぬトーンと表情でいるDr.シンスに対して、Dr.マギカの表情は険しい。
「魔術式の隠蔽。それも、
「ありえないわ。汎用機じゃなくて私オリジナルの
魔術はがしの機械はそれなりに高度な技術であり、この町で扱えるのはDr.シンスのみだろう。都市部の総合病院であれば一台ぐらいおいてあるとは思うが、彼女の機会にのみ反応する魔術など、ほとんど意味がないといえる。
「最初から狙いは俺達だ。この患者たちが俺たちを頼ることを分かって、魔術を掛けていた。二人はトラップに使われたんだ!!」
魔術といっても様々な種類がある。
たとえば、
たとえば、空中に魔力の図形を描いて反応させるもの。
たとえば、入念な準備を整え儀式を行うことで超常現象をひきおこすもの。
たとえば、一定の条件に反応して何かを成すもの。
「隠蔽なんてレベルじゃないぞ。器用に、俺の魔術かお前の機械にしか反応しないようにできている。俺たちが患者に何かをすれば、
彼が知らないということは、魔術アカデミーを卒業した生徒ではない。だが、独学でそのレベルまで到達したのなら、まさしく天才としか言いようがない。だからこそ、レンドは悔しかった。
「どうして、その才能を活かさないの…!?」
荒れ狂う魔力の暴走の中でも、毅然とした顔のままでふるまう。慌てふためくダンケルをダラス越しに見つめながら唇を噛んだ。
「見えてきたぞ。魔術を読み上げる!!」
Dr.マギカが声を上げる前に流れたのは、魔術音声。事前に録ってある声を流すだけの簡単な魔術だ。
「初めまして。僕はDr.ウラン。レンド、シルヴァ、僕の魔術は楽しめたかな?今度は
短いメッセージ。
それだけ告げると、あれだけ威圧していた魔力の塊は消え去った。すでに一切の痕跡も残されておらず、魔術そのものも形骸化している。少し衝撃が加えられるだけで暗心病の魔術は消えてなくなるだろう。
念のため、魔術と機械の両方で検査を行ったが、手掛かり一つ残っていない。それどころか病の痕跡すらも丁寧に消されていた。目立つだけ目立って消える時は呆気の無い。その様はまるで、芸術的な怪盗を見ているかのようだ。
「……妙なことに巻き込んですまない」
「いえ、おかげで暗所恐怖症と立ち向かおうと思えました。僕たちを利用したDR.ウランとやらは許せないですけど、先生たちが悪い訳ではないですから。」
「今度は、カウンセリングに来ますね。」
レンドが見送ると、二人は礼をして帰っていく。診療所に戻れば、机に突っ伏しているシルヴァの姿が目に留まった。彼女の正面に座ると、無言の時間が続いた。
「……Dr.ウラン。何者なのよ…」
「目的もわからなければ、俺たちを狙う理由も明かさなかった。口ぶりから察するに、魔術師でありながら科学も兼任しているのか…。」
「だとしたら!!……どうやってそんなことが出来んのよ。私もアンタも、私たちの父さんや母さんだって出来ないのに!!」
荒々しい口調とは裏腹に、能面のように表情は変わらない。レンドが自身の頬を指さすと、何かに気づいたかのように、シルヴァは両手で顔を掴んだ。
それは、感情を表に出しやすいシルヴァが隠す秘密。不安な表情や難しそうな顔を患者の前で見せないための苦肉の策だった。仮面そのものの材質や形状はシルヴァが自分で作ったが、仕組みや機構の部分はレンドの魔術によって造られている。
外している状態だと、マネキンの無表情にしか見えないが、彼女が着ければ、シルヴァの無表情に様変わりするのだ。もっとも、つけ忘れや外し忘れが多々あるが…。
「やっぱりダメね。私は医者としての心が出来てない。いつまでたっても発明家気取りだわ。あれだけの失敗作を生み出しておいて何様のつもりなのかしら。」
「……あまり自分を責めるな。何も解決しないぞ」
冷酷と呼ばれようとも、誰かに恐れられようとも表情一つ崩さない女の、隠れた涙だった。
……To be continued
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