多分、雨が降るまで。
k.Dmen
雨中雨
夏に差し掛かろうかという梅雨の終わり。
悪あがき。
とでも言い表せるほど、その日は灰の色に包まれ、大粒の雨が踊り、地を荒らす。
僕は嫌いとぐずり、屋根から出ず。
彼女は好きといって飛び出し、雨と共に踊る。
「おいでよ」
と彼女は手を差しのべる。
誘いにぐずる僕。
だが、しびれを切らした彼女に手を引かれ、半ば強引に降りしきる雨の中へと連れ出されれば、途端、服に雨が染み渡り、濡れた世界の一部と化す。
「ね?楽しいでしょ?」
びしょ濡れになりながら無邪気な笑顔を向けてくる彼女に、僕は素直に「うん」とは言わない。
けど、彼女はそういう所が好きだという。
素直じゃないという素直な所が好きだという。
我慢ばかりして、自分を出せず、堪り兼ねて、悔しくて、彼女の前で泣いてしまった時も、無理に励ましたり困るでもなく、彼女は「そんなにキレイな泣き方なんて知らないよ」と褒め、情けない僕を抱き締めた。
彼女には僕は異性として、男として、見えていないのかもしれない。
その証拠に、かわいい存在だと。
鳥籠にでも閉じ込めてしまいたいと言われたこともある。
でも、閉じ込めてばかりでも駄目だと、僕が知らない、したこともないことに連れ出してくれたりする。
今この時もそう。
雨が嫌いと言ったら、彼女は同じように雨宿りしていたくせに、僕の言葉の対岸に立ち、雨が好きだといい、証拠に降りしきるなかに躍り出る。
ただ僕も……。
いや、僕も……。
好きだ。
嫌いな雨も、つまらない学校も、めんどくさい行事も、楽しくない試験勉強も。
……彼女とならなんだって好きだ。
でも、二言目には、彼女への返しの一言目には彼女を否定する。
本当は好きなのにおかしいんだ。
照れ隠し。
子供っぽいが、きっとそう。
いや、間違いなくそう。
そして、彼女はそれを多分……分かってる。
証拠に僕が何を言おうと笑顔で聞いて、それから強引な時もあるが良さを教えてくれる。
僕も僕で、彼女がそう行動することを分かって否定しているのかもしれない。
そう。
好きなんだ。
彼女がいればなんだって好きになれる。
彼女との時間、それが一番好き。
そうだよ……。
ほんと、好きだった。
なのに、なのに……さ。
そんな彼女はもう……。
いずれ僕も向かうであろう所へ、先に……。
旅立った……僕を、置いて。
あの日の雨。
それが、僕と彼女の心と身体が一番
近付いた瞬間。
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