第7話

「ふー! 食べた、食べた! ファムさんの作ったご飯はなんでこんなに美味しんだろー!」


 私は出てきた朝食を食べ終わり、ご満悦だった。

 今いる場所は【熊と小鹿亭】の一階にある食堂。


 この食堂は、宿泊客のために始めたものらしいのだけど、ファムさんの料理の腕のおかげで、宿泊客以外も来るほどの盛況ぷりだ。

 朝だというのにそこまで狭くない食堂の席はほとんど埋まっている。


「あらー、ありがたいわねー。エマちゃんは本当に美味しそうに食べてくれるから、作りがいあるわー」

「あ、ファムさん。おはようございます! 今日のオムレツも絶品でした‼︎」


 栗色の緩やかなロングヘアーと、こげ茶色の丸みを帯びた瞳。

 食堂の料理長であり、【熊と小鹿亭】を営む夫妻の一人、ファムさんが私のところに来て、声をかけてくれた。


 熊と小鹿とはよく言ったもので、見るからに熊っぽいベアードと同じで、ファムさんは小鹿というの本当によく似合う。

 大男であるベアードとは対照的に、私よりも背の低い小柄な体格で、愛らしいという感覚がよく似合う柔和な物腰。


 本当にどこで二人は知り合ったのか、問いただしたくなるほど、対照的な二人だ。

 それと、ベアードがファムさんのことをベタ褒めする理由も分かる気がする。


「ありがとー。オムレツのコツはねー、強い火力なの」

「なるほど! ファムさんの作るオムレツは本当に美味しすぎて、何個でも食べられちゃいます!」


「ふふふ。ありがとー。嬉しいわー。今度オマケしちゃうね」

「わーい。やったぁ!」


 本心から喜んでる私に笑顔を見せ、ファムさんは再び厨房の方へと向かっていった。

 私はファムさんが完全に見えなくなってから、自室へと戻るため、移動を始める。


 二階に登る階段へ向かう途中、カウンターに立っているベアードが私に気付き話しかけてきた。


「おう。エマ。飯を食べ終わったのか? どうだ? 今日もカアちゃんの作る飯は最高だっただろ?」

「うん。ベアード。今日も美味しかったよ!」


「そうか、そうか。そういえばエマがここに来てから一週間だな。職は見つかったのか?」

「あははー。うーん。なんかこれといったものがなくてねー」


 アッシュとの取引を終えた後、私は受け取った資金を使い、アッシュたちと同じ場所、【熊と小鹿亭】の一室を借りることにした。

 少なくともこの時代の常識を手に入れ独立するまでは、できるだけ三人の短いにいた方がいいと思ったからだ。


 そういえば、取引を終えた後、ジュエルが近づいてきて、「アッシュのことを悪く思わないでくれ」と言ってきた。

 物知らずの私から安く買い叩こうとしているわけじゃなく、私のことを案じた上のでできる限りの提案だったと。


 確かに、アッシュが極悪人であれば、遺跡で出会った際に、殺して奪えば良かったのだ。

 わざわざ私を街まで護衛してくれて、さらに生活に必要な知識まで提供してくれる。


 つまり、アッシュは私のためを思って、あの取引を提案してくれたということだ。

 ただ、ジュエルが言うには、性格上善意だけの無料奉仕をするわけにはいかないということらしい。


 そこで私の持っていた光源の魔道具に目をつけた。

 あれを引き取るという条件で、当面の資金の提供の代わりにしたのだろうというのがジュエルの考えだった。


 相場より安く手に入れることで、その後と面倒を見る口実もできる。

 要するに、アッシュは優しいけど、現実的な性格の持ち主だったということだ。


「教えてくれてありがとう。大丈夫。私が助けてもらったってこと、きちんと分かってるよ」


 そうジュエルに応えると、ジュエルは嬉しそうにはにかんでいた。


「さーて。今日は何しようかなー」


 自室に戻った私は、どかっと床に座る。

 昨日までは早くこの時代に慣れるようにと、あてもなくぶらぶら一日中街の中を探索してみたりもしてみた。


 結局分かったことは、やはりこの時代には魔道具は全くと言って良いほど普及しておらず、どこを探しても魔道具師という職業はいなそうだということだった。


「うーん。千年前に文明が滅んだっていうけど、一体何があったのかしら。人類は生き残っているのに、魔道具師は姿を消してるなんて……」


 少なくとも出会った人は私と大きく変わった見た目をしていない。

 全く違う種族が発生したということもないだろう。


 それなら、文明が潰えたとしても生き残った人たちが少なからずいたはずだ。

 たまたまその中に魔道具を創る技術を持った人が一人もいなかったのだろうか。


「考えてても仕方ないか。今、一番の問題は……」


 そう言って私は後に身体を倒し、手足を伸ばして、駄々をこねるように叫んだ。


「あー! 創りたい‼︎」


 何をかと言えば、もちろん魔道具をだ。

 自他ともに認める魔道具狂の私は、時間と体力が許せば、何時間でも魔道具を創り続けることだけに没頭できた。


 そんな私がもう一週間も何も創っていない。

 正直、叫ぶだけで済んでるのが不思議なくらいだ。


「そうだ‼︎ 創っちゃえばいいんだ! 研究室から持ってきた材料と、他にもいくつか鞄に入れてたよね!」


 鞄の中身にどんな物があるか確認するため、私は鞄の中身を全て床にばら撒き始めた。

 すると……


「にゃあー‼︎ やっと出られてた‼︎ ひどいんだから! エマ‼︎ ワタシのこと忘れたの⁉︎」


 鞄の中から黒色の猫が一匹飛び出してきて、私に向かって文句を言った。


「あー! ごめん、ごめん。ラシャ。忘れてなんか……あの、ゴメンね?」


 出てきたのはラシャ。

 私が創り出した、猫の見た目をしたゴーレム型の魔道具だった。

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