【3巻発売中】私の推しは魔王パパ(旧題:乙女ゲームの最強ラスボス魔王だけど、平和的解決を望みます!)
夏まつり🎆「私の推しは魔王パパ」3巻発売
1章 魔王は魔界を手に……入れたくない
01-01 聖女と魔王は対峙する
「五天魔将を倒し、ここまで辿り着いたことだけは褒めてやろう。聖女とその一行よ」
まだ十代半ばの、わたしと同い年くらいの少女だ。ほとんど人と同じ姿をしているけれど、尖った耳と頭に生えた漆黒の角、そして背中から広がる黒い羽が、わたしたち人間とは違う種族であると告げている。
背中に落ちるウエーブのかかった赤い髪も、同じ色の
思わず目を逸らしたくなるような、赤黒くおびただしい魔力が、彼女の身体に収まりきらずに
――魔王。
そう呼ばれるにふさわしい、莫大な魔力だ。
それに比べ、人であるわたしの魔力のなんとちっぽけなことか。聖女と呼ばれていても、わたし一人の力では魔王には到底及ばない。冷や汗が頬を伝い、持っていた杖をぎゅっと握りしめる。
怖い。
今すぐにでも、逃げてしまいたい。
けれど、それでも。
わたしたちは彼女を倒さなくてはならない。
わたしたちの国を、この世界を守るために。
「魔王、貴様は必ずこの剣の錆にしてくれる」
レオンが一歩前に進み出る。その目に燃えるような闘志を宿して。
「我が国のため、負けるわけにはいかない」
アルバートが静かに剣を抜き、切っ先を魔王に向けた。
「ルシアは必ず僕が守る」
大盾を構え、トゥーリがわたしの前に立ち塞がる。
「必ず勝って、共に帰りましょう」
わたしの隣で、ニコルが杖を構えた。
「人と魔族の和平実現のため、あなたにはご退場いただきます。魔王」
ジュリアスが眼鏡をかけ直しながら、魔王を見据える。
魔王はゆっくりと立ち上がると、高らかに笑った。
「ふ――ふはははははは! せいぜい楽しませてくれ、聖女どもよ!」
――と、いうのが、乙女ゲーム〝レジェンド・オブ・セイント〟のラストバトルイベントだ。
この戦いに聖女たちが負ければゲームオーバー、勝てば攻略対象とのハッピーエンドかノーマルエンド。たとえどのルートであっても、敗れた魔王はそこで死ぬ。聖なる炎に身を焼かれ、徐々に身体を灰にしながら、それでも彼女は笑うのだ。
「ははははははは! 楽しかったぞ聖女よ! よかろう! 私が壊し、殺し、破壊し尽くしたこの世界を! 聖女の力で癒せるというのなら、せいぜい治してみるがいい!!」
そして魔王は塵となり、消える。聖女に感情移入していれば、苦戦に苦戦を重ねた魔王がようやく倒れ、ガッツポーズもののイベントだ。でも
だって私がその魔王――ディアドラその人になってしまったからだ。
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