第一部 「第二章 第五部 もう一人のマユリア」(初稿)

 4 出会い(初稿)

 過去の話と今の会話が混ざっているので、本当に細かいところですがルギの行動を現在形と過去形に分けたり色々と変えてみました。


 第一部は過去の話の語りと現在の会話の混在で進んでいきます。それをどうしたらもっと分かりやすくなるか、本当に自己満足に少しばかりいじりました。

 内容としてはほぼ同じです。少し言葉を足したり引いたりはしていますが、それは一年以上前の自分と、今の自分の感覚の違い、ぐらいだと思います。






――――――――――――――――――――――――――――――


「当時のシャンタルっつーと今のマユリアだな?」

「そうだ」


 ルギは奥宮の衛士に捕まり前の宮の一室に連れて行かれた。


「その部屋に1人置かれてな、どうなることかと思った。やっと前を向いて生きていこうと思ったそのすぐ後にこんなことにってな」

「それでどうなった」

「おまえも行っただろう、あの謁見の間に呼ばれた」


 衛士に連れて行かれてあの部屋に入った。

 トーヤが経験したのと同じようにカーテンが開かれ、段の上にいた当時のシャンタル、今のマユリアと初めて会った。


「美しかった……」


 ルギが夢を見るように言った。


「当時はえっと、マユリア、まだシャンタルか、が8歳ぐらいか?そんなにきれいだったのか」

「ああ、今と変わらず美しかった」


 そのシャンタルが立ち上がって段を降りると、近寄ってきて跪いているルギの正面に立ち、にっこりと笑った。


「ちょ、ちょっと待て!」

「なんだ?」

「シャンタルって笑うのか?」

「あたりまえだ」

「いやいやいやいや、今のシャンタルは違うだろうよ、何考えてるかさっぱり分からん、表情もねえ、きれいじゃあるが人形みたいじゃねえか。笑うなんて想像もできねえぞ」

「それは当代の話だろう、先代はよく笑われた。話もよくされた」

「そりゃねえよ~」


 トーヤが情けなそうに言った。


「そのぐらい愛想あいそよくしてもらえたら俺だってもっとがんばって助け手ってやつやろうって思ったのによお」


 ルギが声を上げて笑った。


「わ、びっくりした!あんたもそんな風に笑えるのかよ」

「悪かったな……」


 そう言いながらもまだクツクツと笑っていた。


「ほんっと、別人みたいだよな、いつもと……そんでもまあ、あんたの認識がちょっと変わった」

「どういうことだ?」

「俺の持論じろんなんだがな、笑える人間に悪いやつはいねえって」

「なんだそれは」

「人は、笑う時にその人間にふさわしい笑い方をする。いいやつはいい笑い方、やさしいやつはやさしい笑い方、そして悪いやつは悪い笑い方だ。それでもまだ笑えるやつはいい、一番問題なのは笑えないやつだ。だから、あんたは本心からは笑えないやつだと思っていたわけだ」

「なんだそれは」


 もう一度そう言ってルギが笑った。


「まあな、笑おうが笑おうまいが俺はあんたが嫌いだからあんまり関係ねえけどな」

「奇遇だな、俺もおまえが嫌いだ」

「気が合うなあ」

「全くだ」

「そんで、マユリアと、おっと当時のシャンタルと出会って、そんでどうなったんだ?」

「そうだったな」


 ルギが話を戻した。


「あまりの美しさに呆然とした。だが勘違いするな、姿形の美しさだけではない、あの方のかもし出す内側から光る聖なる美しさにだ」

「わあったわあった」


 トーヤはぞんざいに返事をした。


「なんでもいいが、あれだろ?つまり一目惚れしたっつーことだな?」

「馬鹿なことを言うな」


 後ろでルギが顔をしかめるのが分かるような様子で言った。


「そんな俗な感情ではない。おまえと一緒にするな」

「あ、傷つくなあ、その言い方。俺だってこう見えて純情で純粋なんだぜ?」

「おまえは本当に面白いな」


 そう言いながらも今度は笑っていないようだった。


「まあなんでもいい、とにかくそのようなぞくな感情ではない。あえて言うなら神に出会ったと言えばいいのか、そういう敬虔けいけんな思いだった」

「へいへいそうですか、っと……それで?」


 マユリア、当時のシャンタルはルギに微笑むとまず名前を聞いた。


「名前は?」

「ルギ……」

「ルギ、どうしてあそこにいたのですか?」

「それは……」

 

 ルギは言葉に詰まった。

 家族を亡くしてその思いをぶつけるべく王宮に暴れこむつもりだった、そうして殺されるつもりだった、などと答えられるものではない。


「どうしました?なんでもいいのですよ、言ってみたらどうですか」


 言いよどんでいるとその方はそう言ってじっとルギの目を見つめた。


 その目を見ているうちにこの方になら何を言っても分かってもらえるのではないか、そう思って家族が亡くなって忌むべきものになったこと、その後母を亡くしたこと、そうしてここへ来た経緯、などをすべて話してしまっていた。


「あ~分からんではないな、俺もマユリアにはいっつも気をがれちまってるからな」

「そのようだな」


 そうしてすべてを話した後、その方はこう言った。


「そうですか。そしておまえは自分の運命を見つけたのですか?」

「はい、多分……」

「そう、それはよかったこと」


 また花がほころぶように笑う。


「ではおまえは自分が見つけた運命のまま、思うように生きればいいでしょう」

「はい」


 そうしてそのまま衛士になった。


「って、そういうのでなれるのかよ衛士って!」

「俺の場合はそうだな」

「なんだよそりゃ~」


 トーヤは呆れてはあっと息を吐いた。


「それで現在に至る、ってわけか」

「そうだ」

「やれやれ……そんで、あんたもあの部屋の出口が分からなくて困ったわけだな」

「そんな間抜けな真似はしない」

「さいですか……」


 そんな話をしながら歩いていたら出口が見えてきた。

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