第110話 緊急事態?!
「それでこういうのはどうかと思ったんだけど……」
「ほぉーん……成程なるほど……。あんたにしてはいいのを考えるじゃない」
「おかげでちょっと徹夜しちまったけどな……」
部活が始まる前。昨日思いついた案の一つを、莉亜に見てもらってたところだ。
昨晩のことを思い出していたら、不意に欠伸が出てくる。入浴中にピンと閃いたものがあったから、風呂から出たあとずっと机に向かってあれこれ話をまとめてたんだよな。時間が忘れるくらいに作業に没頭していたみたいで気がついた時には深夜の一時を回ろうかっていうところだった。
今日ばかりは漫画に打ち込む莉亜や戸水さんの気持ちも少しはわかる。確かにどんな話にしようかと考えをめぐらせていたら、わくわくしてくるもんだ。
「お兄ちゃんすっごい眠そう」
「こういう眠気って……後になってから来るもんなんだよぉ……」
てなわけでー……部活が始まるまでの五分間でいいんで、ちょいと寝かせてくれませんかー。テーブルに突っ伏しせていただきますよーっと。
「そんで煌晴。詳しい話を聞かせてくれませんかねー」
「頼むから……ちょいと寝かせて……」
俺の話なんか、莉亜は聞いちゃいない。さっきの話聞いてました? 俺疲れてんの。徹夜してしまったとはいえくっそ眠いの。
「どんな話なのー?」
「煌晴にしては、頑張ったんじゃないのって思う」
「俺にしてはって……」
確かにこういうことに関しちゃ、莉亜から見りゃ俺は素人だけどさ……。これでもネットのまとめとか見ながら苦心したんだぞ。
「まぁ後でゆっくり説明すっから……今は休ませてお願いします……」
今度こそテーブルに突っ伏す。少しは休める。そう思い夢心地に――――
「まずいことになったぁぁぁぁぁー!!」
「?!」
部室のドアがいきなりガラッと開いて聞こえてきた叫びのせいで、眠気が一気にすっ飛んでしまう。声の主は戸水さんである。いったい何事だというんだ。
「わかちーうるさい。音楽聞こえないっす」
「そうよ若菜。校内に思いっきり響くからやめなさい」
「そんな場合じゃない!」
「落ち着くっすわかちーとうとうイカれました?」
サラッと毒吐いたな月見里さん。普段はあんまり毒舌になるようなキャラじゃないのに。
「それで何があったの若菜?」
「う、うん。来週のことなんだけど……」
戸水さんから何があったのか、慌ててるのかそうとう取り乱してるのか、文章になってない説明もいくらかあったが、そこは槻さんが何とかフォローしてくれる。
「ダブル……ブッキング?」
「と言うと……何かダブりました?」
「ダブったのよねぇ莉亜ちゃーん」
「今更どうとも言えないけど、若菜のスケジュール管理が少し甘いのよ。あとそれは少し意味合いが違うわよ」
来週の火曜日に再び演劇部を訪ね、茅蓮寺祭の演劇の内容についてを話し合う予定ではあった。のだが、その日に文芸部の方から妙蓮寺祭についての会合をしたいという話が来たのだ。
双方、この日に会合をしたいと言うので、こちらの都合でずらすことができないのだ。
「でも幸い、全員参加する必要はないから、分かれればいいんじゃないの」
「そう簡単に言わないの若菜」
「二年は四人いるんだから、それをにーにーで分ければ……」
「あー悪いんすけど……私その日は面談が入ってるんすよー」
「……え゛」
月見里さんからの発言、絶句する戸水さん。いやいや、それくらいでそんな顔されましても。
「そういうことで。すんません」
「最低限二人は連れていくことになってるから困ってるの」
「なら、誰か一年を連れていくしかないんじゃないの?」
「そうなるっすねー……。なら誰連れてくんすかわかちー」
月見里さんが戸水さんに聞くと、考えるまもなく俺の方指さして答えるのだ。
「だったら大桑君で!」
「はいぃぃ?!」
「一年の中だと一番頼りになるって言うかー、まとめ役に向いてるって言うかねー」
「ちょっと若菜……」
そう褒めてくれるのは非常にありがたいんですけども。迷わず俺にしますか?!
「そういうことで! お願いします大桑君!」
「あ……」
「部長からのご指名だよお兄ちゃん!」
「だいじょぶだいじょぶ。そんとき部室には私がいるから安心なさい!」
「おー……そうかー」
「なんでそんな不安そうな顔してんのよあんたは!」
だってそう思ってるんだから。
「まぁ来週の火曜の会議に出るだけなんですよね。どっちのかはわかんないんすけど」
「それはまた後日考えるわね」
とまぁ来週の一件については、何とかなりそうだという。会議出るだけだから、特に大きな負担にはならないか。
「それよりも莉亜ちゃーん。大桑君と何か話してたみたいだけど、なんの話?」
「演劇部の件について、煌晴がなかなかいいのを考えてくれてきたんで」
「なになに? 気になる気になる!」
「あ。私も気になるっす」
その後はわらわらと……。俺の周りに皆集まってくる。さっきの騒ぎなんてまるでなかったかのように。いつもの通りの部活になる。なぁ……一分でいいんです。寝かせてくれませんか?
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