第107話 アイデアが出ないのなら

 翌日。早速どういうストーリーにしようかを部室で話し合っていたわけなんだが。


「こんなのは?」

「もうちょいひねりが欲しい。あの人って変わったの好きだから」

「でもこれは老若男女問わず、色んな方々に見てもらうものだから、行き過ぎたものは無しよ」

「わかってるわよ。でないと鏑木さんに怒られそうだし」

「その前に私が怒るわよ若菜」


 会議は思いのほか難航していた。恋愛と一言に言っても、それを舞台や登場人物についてを細かく考えていけば、それは多岐にわたる。


 学園を舞台にするのか、職場にするのか。はたまた一国の王城を舞台とするのか。

 そして誰にスポットを当てるのか。学園を舞台にするならば先輩後輩、クラスメイト、部活の選手とマネージャー、組み合わせは実に多彩だ。

 現実世界ではなく異世界を舞台とするならば。王国の貴族同士。はたまた貴族と庶民という組み合わせ。他国の姫君と、なんてものもあるんだとかで。


「難しいもんっすねー」

「単にどういうストーリーにするかだけではなくて、各登場人物についてどんな人物なのかも考えないと。でないと演じる側も演じられないでしょう?」

「考えることって多いんすねー。しおりんこういうの詳しいんすか?」

「お父様のご友人の繋がりで、脚本や監督業に詳しい方のお話を聞かせてもらったことなら何度かあるわね。でも私がそれを聞いたのは子供の頃だから、そんなに詳しいわけじゃないわ」


 漫画を描くというか、シナリオを作ることに関しては素人の方が多い。ここは経験者の力を借りることにしよう。


「莉亜とか蕾とか。何かいい案ないか?」

「さっき色々パターンとか組み合わせ考えながらやってるけど……これだってのがなかなか」

「いい話は、すぐにはまとまらない……」

「そうか……」

「そいつの言う通り、話一本作るのも楽じゃないのよ。これまでだって、何度かあんたのとこに相談に来たことくらいあったでしょう?」

「いやお前の場合……」


 研究資料だとかモデルにしたいだとか。そんな理由をつけてはだいたい変なことをするのが莉亜だ。

 延々と変なポージングをさせられたり。手足を手錠で拘束されたり。やることなすことめちゃくちゃだ。


「はぁ……」

「なんでそこでため息出んのよあんたは」

「なんでだろうなー」


 ほんとに昔っから世話の焼けるやつだったかんなー。

 なんてことを今になってあれこれ考えたところでどうにもならないか。今は素人の頭でも何とかフル回転させて考えねぇと。

 それでも中々ピンっと来るものが浮かばないもの。やっぱり創作ってのは簡単なことじゃない。


「そういうことなら。座ってペンを持って考えるだけじゃなくて、実際に身体を動かして考えてみるのが一番よ!」

「実際にって……何するんです?」


 皆難航していたところに、戸水さんからの提案が入る。身体を動かすって……どういうこった。


「ふっふっふ……。そういうことだから……協力してもらうわよ大桑君?」

「……なんですその企んでる顔は?」


 悪寒がする、身震いがする、身の危険が近づいている。すっと立ち上がったその瞬間。


「葉月ちゃーん、りあちゃーん」

「「ラジャー」」


 葉月と莉亜に捕まえられる。名前呼ばれただけだってのに、なんでそうも忠実になってんだあんたら。


「ということで。男子である大桑君にはちょーっと手伝ってもらおうかと」

「手伝い?」



 数分後。


「ねぇ、お兄ちゃん?」

「な、なんだ」

「お兄ちゃんに、どうしても話さないといけないことがあって……。実は……私とお兄ちゃんって――――」

「ちょい待って」

「ちょっとー。お兄ちゃん雰囲気ぶち壊しにしないでよー」


 何故か芝居を演じさせられることになった俺であって。ちょっとは我慢したけど乗り気ではないから無理やりぶった切った。

 でもって監督っぽい雰囲気出してる戸水さんに進言する。


「なんですかこれ」

「何事も経験よ。実際にそういうシチュエーションを色々試してみれば、名案が浮かぶんじゃないかと思って」

「俺こういうのやりたくないんすけど。恥ずかしいし」


 ちなみにさっきのシチュエーション。妹が兄に対して、実は血の繋がっていない義兄妹であることを明かし、その後妹が兄の唇を奪ってから告白するという流れになっている……だそうだ。


「いやでもねぇ……。百合ってジャンルこそあれど、大衆に見てもらうものなんだから、やっぱりまとまるところは純愛だと思うのよ」

「それはわかりますよ。言いたいことはわかりますよ。でも男俺だけじゃないでしょう。薫だっているでしょう」


 向こうで槻さんと並んで立っている薫を、ビシッと指さした。


「いやぁ……薫ちゃんだとねぇ……純愛じゃなくて百合になるわね」

「今回の場合、やっぱり煌晴とやった方が絵になるって言うか」

「今回はかおるんよりこうちんのほうが適任っすね」

「俺に拒否権はないのか……」


 あと薫さん。少しは先輩らに文句のひとつ、言っても良いんですからね。でないとあんた駒にされるぞ。


「他にも色々と。私の中でイメージ立てたものはあるんだけど……」

「やりませんよ」

「これも茅蓮寺祭のためなんだってばー。頼むよー大桑くーん」

「嫌なものは嫌ですよ。こんなの俺らしくもない」


 ビデオカメラ構えて言われましても。なおのことハイとは言えないんですけど。てかどっから取り出したんだそのカメラ。部室にそんなもん置いてあったか?


「ほいほーい。時には諦めも肝心だよー煌晴」

「そーだよーお兄ちゃん。ということでー」

「お゛うぅ?!」


 莉亜と葉月に両肩をがっちりと掴まれると。そのまま部室の外へと連行される。


「そういうこったから。外に出て色々やってみようかー!」

「おー! 気合い入るっすねわかちー!」


 俺の意見は完全に無視かぁぁぁぁぁぁ?!

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