作戦

 …… 自分の娘を捕らえて、それを僕達に救えと……?

 マミはどれ程辛い思いをしたんだろう。

心が壊れダフニの館に送られる事になる程までに……


『…また、参議院議場にはユウト様のメダルを元に戻す為に必要な『雫』が御座います。そして、衆議院議場に囚われたマミ様を拘束から解放する為には、ユウト様の『刃』が必要になります』

 ルール説明を続ける背馬の言葉を遮り、ツカサ先輩は僕に耳打ちをした。

「なら、簡単な事だね。リラは衆議院議場に居るマミを守り、俺はユウトを参議院議場まで援護して向かえばいい。何の問題もないさ」

 その声が聞こえたのか、背馬は表情を歪ませると言葉を続けた。

『話は最後まで聞いてください。ここにいる擬態バッタイヴェは、ユウト様と反対の方向に向かいます。参議院議場に向かう事、つまり、マミ様の居場所は擬態イヴェで溢れかえり、喰い殺される彼女の命は儚く散ることとなります』


「なら、簡単ね。ユウトがマミちゃんの元にいて、私とツカサさんでイヴェを全部倒したら良いんですもの」


『ですから…最後まで聞けや! 若造ども!!』

 言葉遣いを豹変させた次の瞬間、背馬は頭を震わせ、その顔は歪に膨れ上がった。

肥大した眼球は複眼となり、大きく開いた口からは刺々しい牙が生え、背中からは脚と羽根が生え出し、その風貌はバッタ人間と形容出来るものに変わっていった。

『ワタシハ…ユウトの命ヲ狙って後を追ウ。その場にいる者は皆殺しニスル。キチキチ…』


「なんだよ!その無理ゲー?!」

僕の不満に水崎は『当然だろう?ルールを作った者が勝つように出来ているのはゲームにと留まらず、現社会にも当て嵌まるのだから。そんな逆境を乗り越える事が出来なければ、世界を救うなど戯言で終わるだろう』と、口元を歪ませた。


『クゥ〜ン』と、うなだれるハムの様子からも、状況は好ましくないという事実が立ち塞がる。

 しかしその時、僕は一つの案を思いつくと皆んなに小声で呟いた。「僕に考えがあります…リラさんの案で行きましょう」と。

 その言葉に間髪入れず、リラとツカサは『また自分だけで!』怒号を放つ。

 それを、僕は冷静な言葉で返した。

「ここに囚われているマミさんって、偽物だと思うんです。バックサイドを展開した時に、近くに居ないと巻き込まれる事はないから。だから、僕が逃げ回っているうちにリラさんと先輩はイヴェを殲滅して下さい」

 僕の言葉に首を傾げたのはツカサ先輩だった。

「なら、全員で鍵を取りに行ったらいいじゃないか?」

 そうしない理由。それは、「万が一、マミさんが本物だった場合守る必要があります」

 ツカサは、その言葉にまだ納得がいかない様子で、「ユウトくん、今、君は武器も無いんだ。あの超越体セバの攻撃からどうやって身を守るつもりだ?!」と、僕の肩を掴む。それに僕は頷くと、「避けます。でも、ハムのサポートが欲しいです。ハム、黙って聞いてくれるかい?」と、ハムの頭を撫でた。「…で、ここからが大事なんですが………」

 僕は作戦を伝えると、『ユウトってたまに頭がキレんやな。それで行くしかないわ』というカアクの言葉は、きっと僕の真意を紛わす為に言ってくれたのだろう。


「ユウト、絶対に…早まった事はしないで。そして、私たちが戻るまで無事でいてね」

 そう言うリラの瞳は僕の心を見透かしているように、真っ直ぐだった。


『そろそろ相談は終わったかね? では、始めようじゃないか』

 水崎の声と共に動き出す擬態イヴェと、超越体。

「行こう!」僕の言葉で皆が駆け出す。 

「リラさん、ツカサ先輩!どうか無事で!」僕とハムは左。マミが囚われているとされる衆議院議場へ。

「ユウトくん、絶対に死ぬなよ!」ツカサ先輩とリラは右。参議院議場へと。


 水崎とすれ違いざまに、『さあ、見せてみろ。貴様らの可能性を』という言葉が耳に届いた。

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