契約更新

『今日のニュースです。本日昼過ぎ、〇〇高校で謎の生物による襲撃がありました。謎の生物はその後、姿を消しましたが近隣住民の方は十分ご注意下さい。尚、襲われた生徒たちは怨怒化しており、救急搬送された病院で治療を………』


 マミ達が去った後、テレビからは神妙な面立ちでニュースキャスターが淡々と記事を読み上げていた。


「…ユウトの学校、大変だったのね。まさかイヴェが現実に出てくるなんて」

 リラが淹れてくれたコーヒーを、誰もが口に運ぶのを忘れ画面を注視する中、カアクは鼻をほじり続けていた。

「せやから、はよう残りの『巣』を壊さんとな… マミが怨怒化してへん事から、多分…自宅やない。水崎議員の職場が関係あるかもな……おっ、デッカいの取れた♡」

 見かねたシブの『はしたない真似しないの!』という注意に、カアクの『シブかて、鼻くらいほじるやろ?』という反論が、いつもの日常に戻ったかのような錯覚と安堵を僕に覚えさせた。


『…次のニュースです。 現在開催中の臨時国会ですが、怨怒化する議員があとを絶たず一旦中断される事となりました。この事により本年中の怨怒症補正予算の……』


『ほらな』そう言って、カアクは僕の肩に手を置いた。

 ––– 今、鼻ほじってたよね?


 その様子に笑いを押し殺しつつ絶対気付いているよねナロゥは肩の鼻くそに

「善は急げだな…休む間もないが、明日にでも向かうぞ」と、僕の肩に手を掛けようとして…やめたやっぱりね


「ユウトくん、体調は大丈夫かい? 俺に何か協力出来る事があればいいんだが……」

 ツカサ先輩の苦々しい言葉に、僕は頷き、

「大丈夫です。皆んなの大切な日常を取り戻してみせますよ」と、答えるが、

「じゃあ俺は、最後の『巣』の在り方を探っておくよ」…そう語る先輩の表情は哀しげだった。


 そこに、シブがツカサ先輩の後ろから腕を回して抱きつくと、「あら? ツカサさん気付いてないのかしら?」と、意味深な言葉と共に、その唇が先輩の頬に触れそうなところまで迫る。


「ん? 何がだい?」

––– 何故?! 先輩はそんなに平然としてるんだぁ?! まさか、経験済2回目かぁ!


「うふふっ…ギルティ『ヤシロ』。社会的欲求は地位を望む他に、別の欲求も含まれている事を知っているかしら?」

––– 触れる!唇が、先輩の頬に触れる!

先輩には沙奈江さんがいるんですよぉ!!


「シブ…… つまり?」

––– FU・RE・TA?!


「もう、こんなに凄くなっちゃって……」

––– ああ、ハムの尻尾フリフリも凄くなっちゃって!!

「ツカサさんの…」

––– 先輩の?!

「メダルがね」

––– めだる。?


 シブがツカサ先輩の目の前にかざした白いメダルは光り輝いていた。

「我が名は精霊神シブ。社会的欲求…別名『所属と愛の欲求』を求める罪人、真島 司よ。 汝の欲求は満ちた。我と契約し『ギルティ』を受け入れるか?」

 仰々しく語るシブは嬉しそうに目を細めていた。

「…… 答えるまでも無い」

 ツカサは微笑と共に、そのメダルを掴んだ。


 ––– カアクちゃん? 僕と初めて契約した時、こんなにカッコよくなかったよね………

 

「改めて、宜しくな!ユウト、リラ、ハム!」

ツカサ先輩の覗かせた白い歯が眩しく輝いた。

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