Chapter one - あの時 -

沈みきった僕の心には彼女の笑顔が薬だった。


余命2か月。

そう聞いたのは今から一か月前のことだ。

僕は会社で倒れ、病院へ運ばれたのだ。

そこで告げられた。

あと2ヶ月の命だと。

珍しい病気で治療法がまだないらしい。

一か月半後に入院してほしいと言われた。

言い換えれば、一か月半後には入院しなければならない容態になるのだろう。


聞いたときは信じられなかった。

確かに突然倒れたのだから、原因があるとは思っていたが。

いきなり二ヶ月後に死ぬと言われても実感がわかなかった。


一日たって、やるせなさや不安が込み上げてきた。

なんで僕が?なんて考えたりもした。

でも、もう治らないと言われた以上、あと二ヶ月を精一杯生きるしかないのだと割り切った。


まず会社に連絡した。

今関わっているプロジェクトが今週で終わるため、このプロジェクトを終わらせてから退社することにした。

上司からは無理しなくていいといわれたが、僕がやりたかったのでお願いした。


一週間がたち、親に連絡した。

電話越しだったが泣いているのがわかった。

一人暮らしだったが、実家に帰ることになった。


電話から二日後に実家へ帰った。

夕方に実家へ到着した。

前日に荷物は送ったため、もう荷物はついていた。

久しぶりに会った両親はとても悲しそうな顔をしていた。


実家で荷物を開けていると、兄がやってきた。

親が連絡したそうだ。

なんで俺に連絡をくれないのかと怒られた。

こういうのが懐かしくて

久しぶりに嬉しくなった。


荷物を開けながらふと、いらなくないか?と思った。

衣類や毛布は親にあげたり、古着屋で売ったりした。

物はゲーム類や、お気に入りのもの以外をすべて売った。


ものを売ってお金に余裕ができたので、少し旅をすることにした。

昔から旅に出ることが夢だったのでちょうどいい機会だと思った。

観光地を回り、温泉に入り、ゆっくりとした時間を過ごした。

各地で写真を沢山撮っておいた。


そんなことをしているうちに一か月が経っていた。

時の流れをこんなに早く感じたのは初めてだった。


僕にはまだ、悩んでいることが一つあった。

彼女のことだ。

余命のことを直接伝えるべきか、ずっと悩んでいた。

旅行しているうちに決心がつくかと思ったがそうでもなかった。


僕は……伝えないことを決めた。

そして、彼女と最後に会う決心をした。

彼女を久しぶりにデートに誘う。

返事はOKだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る