第340話 銀眼はなぜ、銀の色をしている?
――テラ
私は父と百合さんに瞳を振る。
「父さん、私は百合さんが渡した触媒で生まれたのですか?」
「ああ、そうだ」
「なるほど、フィナの言った通り、触媒はあったんだ」
「ふん、触媒なしに生命を産み出すのは一苦労だからな」
「あはは、その口調ですと、なくても生み出せそうですね」
「さてな」
「しかし、百合さんはどうして触媒が大切なものと? 父さんにとって絶対に必要になるものとは? 正直、私は半端な力しか使えない存在。とても、父さんにとって絶対に必要なものではなかったはず……」
最後は少し悲しみを交えて呟くように言葉を漏らす。
すると、父は私に近づき、口元を綻ばせた。
「いや、お前こそが私にとって絶対に必要な存在だったのだ」
「え?」
父は私の胸を拳でトンっと叩く。
「お前の心が、私に心を与えた。心を知らぬ私に、人としての心をくれたのだ。それが私にとって、とても大切で絶対に必要なものだった。そう、お前の心がな」
「父さん……」
再び、涙で視界がぼやける。
父はそれを目にして、軽く苦笑いを見せる。
「まったく、感情に
「そ、それは?」
「怯えるな。不満はお前のことではない。百合の手の上でまんまと踊らされたことだ」
そう言葉を百合さんにぶつける。
ぶつけられた百合さんは……。
「感謝しろよ。俺のおかげであんたは人になったんだ」
「ケントを道具のように扱ってか」
「それは……悪いと思っている。すまねぇ、ケント」
「いえ、そんな。ですが、ひとつ合点がいきました」
「何がだ?」
「バルドゥルの切り札ですよ。本来は心を知る父さんだったんですね」
「いや、てめぇだよ」
「え?」
「アステでもあのジジイは倒せない。いや、正面から戦いを挑んでも、スカルペル人では勝てねぇ。だから、敵の油断に
「油断?」
「てめぇは弱い。バルドゥルから見れば取るに足らぬ存在だ。まさかそんな存在が、認識阻害を使いただの銃を模した最強兵器を持っているとは思わねぇだろ」
「た、たしかに。ですが、それはっ」
「ああ、綱渡りのような賭けだ。ふふ、綱どころか糸だったけどな。ま、情報を基に予測し行動するのは人間の特権。俺たち地球人はそれに特化してきた。だから予知のように先は読めてたんだが……それでも勝率は1%程度だった」
百合さんは肩から力を抜くような感じでふ~っと息を吐いた。
そして、私に向かい、再び謝罪を口にする。
「ケント、てめぇを勇者のように強くすることもできた。アステのような天才にすることもできた。だが、あえて、普通の人とした」
「全て、バルドゥルを倒すためですね」
「ああ。アステに心を伝えるために生み出し、バルドゥルの切り札として生み出した。ケントという存在を
彼女は深々と頭を下げる。
だけど私には、悲しみや憎しみよりももっと大きな感情があった。
「頭を上げてください。私はあなたの渡した触媒のおかげで生まれることができた。多くの仲間たちと出会うことができた。むしろ、こちらからありがとうと伝えたい」
「はぁ~、そんな純真無垢な心を向けられると尻がこそばゆいな」
わざとらしく白いワンピースの上から本当に尻を掻いている。
父はそんな少々下品な照れ隠しを見て、嘆息を生み、こう一言。
「ふむ……そろそろ伝えても良いのでは?」
「いや、それは言う必要ねぇだろう。お互いそんな間柄でもないしよ。それに今さらそんな
「だが、伝えねば、ギウが辛かろう」
「それは……」
百合さんはギウへ銀の瞳を振った。
瞳を受け止めたギウは寂しげな雰囲気を纏いながらも、気にしないと体を横に振る。
しかし、その態度が余計に百合さんの心を痛めているような気がした。
私は父と百合さんに尋ねる。
「一体、何が、どういうわけで?」
百合さんはちらりと父を見た。
父は仕方ないといった様子で、一歩前に出る。
「ケントよ。今のお前の名前を言え」
「え? ケント=ハドリーです。父さんから名付けてもらった」
「たしかに名付けたのは私だが、その名には意味がある」
「意味?」
「ケント、銀眼はなぜ、銀の色をしていると思う?」
「それは以前、私が過去へ行ったとき同じ問いをされましたね。残念ながら、わかりません」
「ふむ、そうか。では、よく聞くがいい。百合、自分の名を」
そう促された百合さんは頭をぼりぼりと掻き、私をちらりと見て、掻いていた手を腰に当ててこう言った。
「俺の名は百合。
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