第329話 援軍
レイが言葉を発すると同時に、猫な女性の声が駆け抜ける。
「大地よ、雷撃を纏いて愚かなる者たちを飲み込め! ニャ!」
巨大な雷撃が私たちに襲い掛かろうとしていた魔族の前に落ちて、さらに地面がめくり上がった。
大地は大波となって魔族を一気に飲み込み、彼らの肉体は雷を帯びた大地に拘束され痺れている。
そこに猫な男性の声に合わせ、鋭く尖った弓矢が魔族へ振り注いだ。
「
雷撃によって一時効果を失ったナノマシンは肉体を再生することなく、弓矢は大地に自由を奪われた魔族たちの体を容赦なく穿っていく。
私たちは後ろを振り向く。
「君たちはっ?」
私たちの瞳に映ったのは二千のキャビットの兵士たち。
彼らの先頭に緑の魔導服に身を包むカオマニーと、青の狩人服に身を包むスコティが立っていた。
カオマニーとスコティが私たちに話しかけてくる。
「遅れて申し訳ありませんにゃのニャ、マフィン様。連携のタイミングと滅多にない軍の編成のため、ちょっと手間取ってしまったのニャ」
「アグリスの導者フィコン様から連絡を受け、魔族の襲来に対する備えを行いましたのニャ、親父」
「スコティ? フィコン様がニャ?」
「はいニャ。こちらにお手紙を。そしてその手紙はキャビットだけじゃありませんニャ」
スコティは遥か北東を指差す。
そこにあるのはトロッカー鉱山。
鉱山近くからは、遠く離れたこちらからでもわかるくらいの砂煙が上がっていた。
――トロッカー鉱山・周辺
留守を預かった茶色のモフ毛並みのワントワーフの戦士が、二千を超える道着を着た兵士と、千を超える剣や槍で武装した兵士たちに号令をかける。
「部隊を三つに分ける! 各部隊の先頭に位置する者は雷の魔石を装備し、雷撃を食らわせろ。後続は弱った魔族を一気に食い破れ!」
彼の声に応え、三つの部隊は魔族へ突貫し、目の前を埋め尽くす魔族の絨毯を稲妻のように切り裂いていく。
その動きは狼の牙。
彼らの素早い動きによって大地ごと魔族は抉り取られ、大気には血煙と砂煙が混じり合う。
戦士は両手に纏わりついた魔族の血を振り払い、言葉を震わせる。
「奴らの大半が遺跡に意識を向けているから何とかなっているが、それでも数が多すぎる。頼りになるのは――アグリスか!」
彼は相対する方角へ視線を投げる。
――マッキンドーの森・北西方向
森より、巨大な旗が現れる。
それは赤字の布に黄金の歯車が施された旗。
御旗の下にはアグリス軍二十五万と大陸に広がる種族の軍五万が
魔族の嘆きに包まれる旗の下で、フィコンは獅子将軍エムトへ指示を与える。
「火急ゆえに全軍を用いることはできなんだが、何とか間に合ったようだ」
「大陸側で暴れる魔族への備えも必要でありますから、総動員を掛けられぬのは仕方ありません」
「うむ、そうであるな。では、すぐにキャビットとトロッカーと連携し魔族を抑えよ!」
「はっ」
エムトは艶やかな黒の毛を纏う馬の上から、大剣を魔族へ向ける。
「全アグリス軍及び友軍に命ずる! アグリス軍は山脈から降りてくる魔族を半島に流れ込まぬよう分断し、友軍はキャビット・トロッカーと動きを合わせ、魔族の掃討に当たれ! 全軍、命を全うせよ!」
――ケント陣営
私は銀眼に力を宿し、北東のワントワーフと三十万の兵を率い現れたアグリス軍を瞳に宿す。
マスティフは目を細つつ北東へ視線を投げて言葉を漏らし、親父はアグリス軍を見つめ言葉を零す。
「ワシが留守だというのに、見事な指揮だ!」
「アグリスが……敵対している種族と共に立つなんて……」
私は三勢力に視線を飛ばし、頬を崩す。
「三方からの総攻撃。魔族のほとんどが遺跡に夢中で反撃らしい反撃は行っていない。これならばしばらくは抑えられるか! よし、私たちも彼らに負けず、魔族の集団を潜り抜けて遺跡へ向かおう」
ここでカインの声が響く!
「ケントさん! 魔族集団から数匹、トーワへ向かって飛び出していきました!」
「なに!?」
私は彼が指差す方向へ目を向けた。
向けた先には羽の生えた五匹の魔族が地を滑空するようにトーワへ向かっている。
「な、なんという速さだ! トーワのカリスたちのレスターに惹きつけられたのか? ここからでは救援が間に合わない! クソッ!」
反吐を飛ばす!
だが――突然の砲撃音がトーワより響いた!
一匹の魔族が地面に落ちる――さらに砲撃音が続く。
二匹目が地面に落ちる。
私はトーワへ銀の瞳を飛ばした。
「あれは、フィナが設置していたトーワの魔導砲か!? 一体誰が!?」
――トーワ
ゴリンは第一の城壁の上に備えられた砲台のそばで太い両腕を組みながら、彼に話しかける。
「やるじゃねぇか、グーフィス」
「へへ、武装付きの客船で航海士やってたんで、多少砲台は扱えるんですよっと」
グーフィスは魔力を宿すミスリルという素材で造られた魔導の大砲を操る。
形は一般的な大砲と変わらないが、砲弾は魔力の塊。
彼は標準を合わせて、三発目を撃つ。
「いっけぇぇっと! あ、クソ、よけやがった。不意打ちで二匹は落とせたけど、敵の軌道が素早くてもう落とすのは無理かも」
「三匹の魔族か……俺たちやカリスを喰らいつくすのには十分すぎる数だな」
「親方、みんなは?」
「全員、城内に避難しているぜ。だけど、魔族相手じゃ城門は持たねぇ。転送装置もなんかよくわかんねぇ干渉を受けて起動しねぇし、こいつはやべぇな」
――トーワ城内
カリスたちはいくつかのグループにまとまり、身体を震わせていた。
その中でカリスの代表が嘆きの言葉を喚き散らす。
「こ、これは天罰だ。カリスである我々が自由を求めたから、こんなことにっ! ああ、偉大なるサノア様。罪深き我々をお許しくださいっ!」
キサが代表へ強く言葉をかける。
「違うよ。そうじゃないよ。神様はこんないじわるなことなんてしたりしないよっ」
「だったらなぜ!? あんな数の魔族が!?」
代表の大声に小さなキサは身体をびくりと竦めてしまう。
すると、キサの怯えを取り去るように、カリスの中年の男が優しく少女の肩を支える。
そして、代表を睨みつけた。
「何をやってんだ、代表? こんな小さな子に八つ当たりしやがって!」
「あ、ああ、す、すまない。つい……」
「ごめんな。キサちゃん。いつも畑の作り方を教えてもらってるってのに、こんな怖い声聞かせて」
「大丈夫だよ~、ありがとう」
中年の男はキサへ微笑み、彼女の赤毛の頭をそっと撫でて、こう言葉を伝える。
「俺もキサちゃんと同意だ。神様はこんないじわるはしねぇ。だからといって祈ってたって仕方がねぇ。
彼は先端が三又に分かれた農具を手に取り、代表とカリスたちを見つめる。
「サノア様は自ら行動できる人間しか認めてくれねぇ……あの、テプレノのようにな」
「お、おい」
「はは、魔族相手じゃどうにもならねぇだろうけどよ、俺は行くぜ!」
彼はそう言葉を残して、農具を手に城の外へと出ていった。
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