第308話 ギウはね、

・アステの死。ケント、政治家へ転向、トーワへ

 トーワへ赴任してきたケントはギウと出会う。

 彼はケントの銀眼を見て驚いた様子を見せた。

 おそらく、あの時点でケントがアステに預けられた存在だとわかったのだろう。

 だから、彼はケントに協力的だった……。



――――

 私はちらりとギウへ視線を投げる。

 彼は相変わらずボーっとして無反応だ。

 ギウの魂も百合さんの魂もなく、人形のように突っ立ている。

 彼から視線を外し、話の先を進める。



――――

・古代人のおもちゃ箱。銃との出会い

 ケントは親父から銃を手に入れる。

 これはどれだけの時を掛けようと持つべきあるじの下へ納まる銃……らしい。

 ケントがバルドゥルと対抗することを予期して、百合が銃に旅をさせていた……。



―――― 

 私は銃を手に入れた時のことを思い出し、顔を親父へ向ける。


「親父、君はこれをどこで手に入れたんだ?」

「骨董市ですよ。無造作に置かれたのを見つけて店主に尋ねたら、『古代遺跡の一品らしい』と声が返ってきたんで、好事家に高く売れるかなと思い購入してみたんです」

「それはいつ頃?」

「旦那に出会う、ひと月くらい前ですかね」

「まるで、君と私が出会うことがわかっていたかのようなタイミングだな」

「たしかに……気味の悪い話ですな」



 必然を読み解ける古代人百合さんは数年先の未来を見通せるのだろうか?

 それとも、銃があるじである私に呼ばれたのか? 私が銃に呼ばれトーワへ訪れたのか?

 わからぬ謎は置いて、話を一気に進ませる。



――――

・サレート戦での百合の姿とバルドゥルとの戦い

 銀眼で繋がっているためだろうか。百合は暴走したケントの前に現れ、暴走を止めてくれた。

 復活したバルドゥルはケントたちを子虫以下の存在と見ていたが、銃のおかげで彼を撃破することに成功した……。



――――

「以上が大まかな流れだが……あと少しだけ細かなことに触れておこう」



・浄化が不完全であったこと。

・翻訳システムが壊れていたこと。

・バルドゥルの蘇生にフェイクのスイッチがあったこと。

・古代遺跡の施設に破壊の後がなかったこと。


 これらは全て、自我を失いかけた百合さんが必死の思いで事を為そうとした結果、ちぐはぐな部分が生まれてしまった。


・東大陸に奇妙な文化が広がっている理由

 これは……日本文化にかぶれたジュベルが流行らせてしまったためだろう。



「以上か……みんな、他に疑問はあるか?」


 全員に瞳を向けて視線を左右に振るが、誰も声を産もうとしない。

 それはほとんど話し終えてしまったため疑問がないのか、真実に驚いて疑問が浮かばないのか……。



 私は彼らの無言の戸惑いを無言の頷きで受け取り、ギウへ顔を向ける。

 彼は今もボーっとしているだけ。


「ギウでもいい、百合さんでもいい。何か、答えてくれないか?」

 そう問いかけると、ギウは足元からブルブルブルブルっと震えを見せて、いつもの彼の声で答えた。


「ギウ」

「ギウかっ?」

「ギウギウ」

「そうか、戻ってきたんだな。えっと、そのなんだ……君はどこまで把握しているんだ?」

「ギウ、ギウウ……ギウ」


「全てを……でも。でも、なんだ?」

「ギウ、ギウ、ギウギウ」

「全体像に霞みが掛かり、よくわからない? 知っているはずなのに?」

「ギウギウ」

「私に力を貸す? 何に力を貸すと?」


 この問いに答えることなく、彼は不思議な言葉を生む。

「ぎうう……ぎう」

「守る役目……いや、当然のこと? 当然? それは百合さんから指示されたからか?」

「ギウ」

「違う? ならばなぜ、私に力を貸そうとするんだ?」

「ギウギウウ……ギウ……」

「友だから……そして……。そして、なんだというのだ?」

「ギウ」

「わからない……?」



 ギウは悲し気に声を生んだ。

 それはとても大事な思いなのに思い出せなくて嘆いている姿。

 私は苦悩を態度と声に表す彼に、これ以上の問いかけをやめた。


「ギウ、君にも色々あるようだな。ゆっくりでいい、思い出したら、色々なことを私に話してくれ。君のためならいくらでも時間を作るから」

「ギウ」



 ギウは小さく体を前後に振った。

 私たちの会話が終えたところを見計らって、エクアが声を上げる。


「良かったですね、ケント様。ギウさんの言葉や感情が私たちにも伝わるようになって」

「え? ああ、そういえばそうだったな。一時の間とはいえ、彼と意思の疎通ができなかったんだ。エクアの言うとおり、元に戻ってよかった」

「はい。やっぱりいつものギウさんじゃないと寂しいですから。ボーっとするギウさんはトーワの海岸で釣りをしている時だけで十分ですっ」


 と、エクアが言うと、ギウはがくりとこける様子を見せた。

 それにみんなは笑い声を上げて彼を包む。



 私は暖かな笑い声に包まれた室内で安堵感を覚える。その安堵感が、情報の波に溺れた脳に疲れを思い出させた。


「ふふふ……ふぅ~。とりあえず、今日はここでお開きにしよう。色々ありすぎて脳がパンク寸前だ」

 私がこのように声を上げると、一人を除いて、皆は賛同してきた。

 賛同しなかった一人とは――フィナ。



「ごめんね、ケント。パンク寸前の脳みそにもう少しだけ積み込んでほしい情報があるの」

「明日では駄目なのか?」

「明日でもいいけど、時間が経てば経つほど面倒になりそうなのよ」

「面倒?」

「話の途中でさ、トーワのシステムとやらを索敵しようとして範囲を広げ過ぎたって言ったじゃん。その時に、とんでもないものを見つけたの」



 そう言って彼女は、モニター画面の一つを指差した。

 その画面を見て、私がつぶやく。


「これは……クライエン大陸? 位置的には王都オバディアか?」

「当たり。そのオバディアから、百を超えるナノマシンを宿した生命反応が検知された」

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