第290話 世界を救うために
一時間後――トーワ城前
激しい戦闘の末、トーワを守るシールドは悲鳴を上げ始めていた。
親父とカインとキサがフィナへ報告を上げて、彼女が答えを返す。
「もう、限界みてぇだ」
「ええ、あと10分持つかどうか」
「うん、シールドに綻びができ始めている」
「そっか。それじゃ、自爆の準備を。全員戦闘をやめ! トーワ城に集合! 親父は地下研究室にある動力室に行って。自爆は三分後ね」
「ああ、わかった」
親父が戦場から離れ、トーワの城へ向かう――全てを終える最期の使命を胸に
フィナは彼の背中を見つめ、ゆっくりと目を閉じた。
(あ~あ、終わりか。ふふ、悔しいけどホッとしている。もう、戦う必要もない。ゆっくり休んで――)
「今の命令は取り消しよ、親父!」
誰かの声が響いた。
この声は――フィナの声!?
フィナは慌てて目を開く。
すると、トーワ城の中庭から、フィナが姿を現した。
その姿は、自分よりも若いフィナ!
「え、え、あなたは?」
「もう、あんたは私なんだから、諦めちゃ駄目でしょっ」
と、軽快な言葉を発した若いフィナのそばから親父がひょこりと飛び出す。
黒眼鏡を掛けたいかつい顔の親父は無精ひげをじょりっと手でなぞり、左目と左手を失った親父を見つめた。
「あちゃ~、マジで失ってんな。ま、俺もサレート相手にヤバかったけどよ」
「お、お前は俺? こいつぁ、一体?」
二人の背後から白衣を着たてっぷりお腹のカインと、赤色の髪を左右に分けて結ぶ少しだけ成長したキサが現れる。
「おやおや、こっちの僕はやせているんですねぇ」
「うわ~、大人になったわたしだ~。こんにちわ~、わたしはキサだよ~」
「な、な、一体何が?」
「私……? 幼いころの私?」
さらに彼らの背後から――トーワの中心にして、彼こそがトーワというべき男が姿を現した。
「久しいな、フィナ。あの時は世話になった」
「え、あなたはっ?」
フィナの瞳に宿ったのは――法の番人を彷彿とさせる白い法衣の上に黒の外套を纏い、宝石の冠をつけた錫杖を握り締めるケントの姿。
「ふむ、どうやらぎりぎりだったようだな」
「あなたたちは、一体……?」
「私たちは……君たちの世界を救いにやってきた!」
フィナは小さく驚きの声を上げようとした。
しかし、その驚きが追いつかぬ勢いで、ケントは多くへ
――エクア・カイン――
「治療は任せてください。今の私ならどんな傷だって治しちゃいますから! それに最近覚えた棒術で魔族だってペシペシです!」
「フフ、僕もエクア君に負けていられませんね。トーワが誇る大陸最高の病院の院長として!」
――マスティフ、マフィン――
「うむ、腕がなるな。さぁ、リベンジと行くか」
「そうニャね。次こそはあのバルドゥルに一発お見舞いしてやるニャ!」
――ノイファン、カオマニー、スコティ、アルリナの戦士よ――
「はぁ、戦場の指揮は向いてないのですが……」
「何を言うニャよ。あの時の指揮は見事だったニャよ」
「にゃてと、さっさと終わらせてキサさんと起ち上げた保険会社とトーワ商工会の仕事に戻らニャいと」
「チッ、なんで俺たちまで」
「兄貴。しょうがないよ、今の俺っちたちはアルリナの兵士なんだから」
――フィコン、エムト、オーキス、半島及びビュール大陸の戦士たちよ――
「まさか、このようなことに巻き込まれるとは。仕方あるまい。アグリスにおけるルヒネ派の安寧のために黄金の瞳を振るうとするか」
「ふふ、あの魔族との戦いが再び。さらに古代人とは……戦士冥利に尽きるな」
「私はケント様の執事として、いえ、フィナ様の執事としてサーベルを振るいましょう」
多くの戦士や兵士。キャビット族にワントワーフ族。さらには魔術士や錬金術士たちがケントの後ろから次々と現れてくる。
その中でケントは、若きフィナと親父。そして、ゴリンとグーフィスに奇妙な
四人のうちグーフィス以外は自分の前に半透明のモニターを浮かべる。
「フィナ」
「わかってる。この世界を共鳴因子の鎖で固定し、この世界のバルドゥルと共鳴させて全次元からあいつの存在を消してやる!」
「ああ、バルドゥルの存在など決して許さぬ! フィナ、こちらのトーワに動力の充填を」
「任せてっ……お、こっちの動力も結構残ってんじゃん。ま、エネルギーはたくさんある方がいいよね。今から多重次元によるエネルギーを魔力に還元するよ」
若きフィナはモニターを操作し、ケントは親父へ
「親父さんはシールドの再起動を」
「了解、旦那。シールドジェネレーターを持ち込んだから、そいつをこっちのトーワに組み込みましょうかね」
親父もまたモニターを操り、傍に置いてあったボックスから丸い金属の物体を取り出して地面に置く。
するとそれは地面に溶け込むように埋没していった。
さらにケントの
「ゴリン」
「へい、構造維持フィールドを使って城全体の分子構造を強化しやすよ」
鉢巻をつけた大工姿のゴリンはその姿から想像もできぬ様子で、太い指先を使いモニターを操っている。
最後に、ケントは彼に
「グーフィス」
「うっす。いや~、あれが大人になったフィナさんかぁ。やっぱ、いいっすね」
「ふんぬっ」
若きフィナの拳がグーフィスの腹部に深々と突き刺さった。
だが彼は、軽く腹をさすってフィナに笑顔を見せる。
「やめてくださいよ~、フィナさ~ん」
「こ、こいつ、無駄に丈夫になってっ」
「何を遊んでいるんだ、グーフィス? 君は役目があるだろ。どうやら、トーワの戦士たちは全員城の前にいるようだ。撤収の手間が省けたのですぐに起動していいぞ」
「はいっす。では、
そう彼が唱えると、若きフィナがモニターを操る。
その途端、地面からバクりと土の牙が現れて、グーフィスを飲み込み、地面へと消えた。
この世界のフィナは一連の流れをよくわからぬまま問いかける。
「一体、何が起こっているの?」
「おや、忘れたのかな? 先ほど、世界を救いに来たと言ったろう」
「救いに? どうやって? ブリッジって?」
「ふふふ、君は知らないようだな。実は……」
フォンフォンと不可思議な音がトーワを包む。
音に合わせて、トーワを守る三重の壁に青の光が走り、歯車に似た形を浮かび上がらせる。
光は勢いよく回転を始めて、地面を揺らす。
ケントはこの城の隠された機能をフィナへ伝える。
「実はな、この城…………空を飛べるんだ」
「え?」
地面を揺らす轟音が響き、ふわりとした浮遊感を彼女は味わう。
しかし、それも束の間。すぐに大地は安定し、浮遊感も揺れも感じなくなった。
だが、視線――視線だけはどんどんと変わっていく。
トーワは大地を離れ、ゆっくりと空へ上がり始めていた。
フィナは
「な、なんなのこれは?」
「この城に隠された特別な機能だ。空を舞うトーワに敵など存在しない! たとえ相手がバルドゥルであろうが遺跡であろうがっ!」
「ケント……それじゃあ……」
「さぁ、ここは君の世界だ。仲間の指揮権を君に預けよう。私たちに号令を!」
ケントは錫杖を強く地面に突き刺して、大きく左手を振った。
自信溢れるケントの姿に、フィナは自分の知っている過去のケントの姿を思い出す。
その思い出の中にいる、自信に満ちた自分の姿も!!
フィナは緩まる頬を抑えきれず、にんまりと笑う。
そして、高らかに唱えた!
「私たちは今日まで耐えてきた。だけど、今日からは違う! 耐えるんじゃない! 攻勢に打って出る! あのクソッたれのバルドゥルをぶっ飛ばすために! さぁ、トーワよ! 遺跡を目指してっ、反撃開始!」
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