第七章 遺跡に繋がるもの

第72話 怖いもの知らず

 フィナを案内するために執務室から出る。

 扉を開けたところで、ちょうどエクアと鉢合わせをした。



「おっと」

「あ、すみません」

「いや、こっちこそすまない。エクアが来たということは?」

「はい、お部屋の準備が整いました」

「そうか。フィナ、まずは部屋に案内しよう」

「うん? いえ、それよりも地下が見たいかな。あんまり狭かったらさすがに嫌だし」

 

 そう、フィナが言葉を返すと、エクアは疑問の声を漏らす。



「地下?」

「フィナはしばらくトーワに滞在することになった。錬金術師として色々協力してくれるそうだ。それで、研究しやすい地下の部屋を貸すことにしたんだ。しばらくはエクアの用意してくれた部屋で寝泊まりするが、地下には片付けが済み次第にね」


「そうなんですか。えっと、私はエクア=ノバルティと言います。ケント様の下でお手伝いをしています。これからはよろしくお願いします」

「うん、よろしく。私はフィナって呼んでね。エクア」


「はい、フィナさんですね」

「さんはいらないんだけど。ま、いっか。あ、そうそう、初めて会った時に名字を言ったけど、それは忘れて」

「え?」


「色々と問題があってね。だから、私はフィナ。わかった?」

「はぁ、よくわかりませんけどわかりました」


「やだ、素直。この子可愛いねぇ、ケント」

「それはそうだ。君と比べれば、誰もが素直だろう」

「ふふ~ん、皮肉屋ねぇ。喧嘩なら買うよ」

「申し訳ない、売り切れ中でね」

「この、ヘタレ」



 私とフィナは互いに笑顔のまま奥歯を噛み締める。

 そんな私たちを見たエクアは……。



「お二人は……似た感じが、というよりも仲良しさん?」

「「それはない! あっ」」


 互いの声がピタリと重なり合う。

 私とフィナはばつの悪そうな顔を向け合い、エクアはくすくすと笑っている。

 微妙な空気を一新すべく、私はわざとらしく咳払いをして話題を地下へ戻す。



「ゴホンッ。とにかく、地下へ案内しよう。まずはゴリンに頼んで階段を整備してもらわないといけないな」

「あっちこっち傷んでるみたいねぇ。そういえばさ、依頼が二つあるって言ってなかった? 銃弾製造しか依頼されてないんだけど?」


「ああ、忘れていた。実はポンプと風呂釜の調子を見て欲しくてね」

「なにそれ?」

「どうやらこの城にはかなり古い風呂の設備があるらしい。それを修理してもらいたい」

「なんで町の修理屋みたいな依頼をこの私に。ま、お風呂があるならあるに越したことはないから見てあげるけど……」

「悪いな、頼んだ」


 

 私とエクアとフィナは三人そろって地下へ向かう。

 一階に来ると、柱の修繕の様子を見ていたゴリンの姿が目に入った。


「ゴリン、ちょうどよかった。悪いが、急ぎ地下室へ続く瓦礫を撤去してくれないか?」

「ああ、それでしたらもう終わってやすぜ。そのことを報告しようとしたら、ちょうどお客人がいらしたようなんで、あとで報告しようと思っていたんでさぁ」

「そうだったのか。なら、すぐにでも地下の様子が見れるな」

「それが、ケント様……」



 ゴリンの歯切れが悪い。どうしたんだろうか?


「何か、問題でもあったか?」

「はぁ、まぁ……地下の壁にはなんだか奇妙なものが書かれてまして。模様のような、魔法陣のような。若い大工連中の中には、呪いのまじないじゃないかという者もいて、とにかく不気味なんですわ」

「はは、そんなもの――」


「何それ? めっちゃ興味あるんですけど!」

「フィナ?」

「模様って絵ですか? うわ~、昔の人の絵かなぁ」

「エクアまで……」


 

 二人は私の言葉を遮って飛び出してきた。

 ゴリンは二人の勢いに気圧されて、言葉を詰まらせながら声を返す。


「さ、さぁ、そこまでは。ですが、お嬢さんらが興味を惹くようなものじゃないと思いやすよ」

「興味が惹くかどうかは見て判断する。行くよ、エクア!」

「はい、フィナさん! ほら、ケント様もっ」


 二人は勇んで地下室に続く階段へ向かっていく。

 取り残された私はゴリンへ声を掛けた。



「怖いもの知らずだな、二人とも」

「ええ、そうでやすな……」

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