決戦準備

 その日は私が最初に居たあの殺風景な部屋に戻り、一夜を過ごした。しかし寝床も無かった物だから、私たちは固い床のまま不愉快な眠りへとつかざるを得なかった。どちらも目覚めは最悪だったのは、言うまでもない。


そしてその日の昼、マルセイに事情を話し、事の真意を伝えた。

「――なるほど。彼らの言い分は何となく分かった。だが、どうにも怪しい団体だ。話し合いが通じる相手ではなさそうだね」

「ええ、まずないわ。だから話し合いで平和解決、と言うのも確率としては低いかもね」

マルセイが頭を抱える。

「いや、そもそもどうやって相手を見つけ、話し合い、それを実行するのかもよく……」

マルセイが声にもならない呻き声をあげた。分かってないのね……。よくそれであんなにしきれたものだと改めて思う。

「彼らが助けを求めて来たから僕はそれに応じただけだっていうのに……。まさかこんなに大事となるとは、思ってもみなかった」

「まあ、決戦はどちらかがやってくれるわよ。特に相手側はやけに好戦的だからね」

「そうだな……。じゃあ相手の対策でも練るか……」


 「――そもそもお互いが根拠のある言い分を持ってないから、討論しても終わらないと思うわよ」

何かしら色んな対策を練ったが、結局言えるのはこれぐらいの事だった。

「だからこそ、相手側の弱味や悪事をバラせたらこっちの物だ。都合の良い事に相手はかなり危険な集団。すぐに悪事が分かる」

マルセイは悪者の目付きでそう言った。魔法がどうとかは最早関係ないらしい。

「じゃあ早速証拠を掴まなくちゃね。奴等のアジトにもう一度行ってみましょう」

今度は二人で奴等の本拠地へ向かう。二人ならきっと大丈夫。そう信じて私は向かった。


 「この辺りかい?」

マルセイが少し人通りが少ない、狭い路地を見渡してそう言った。

「確かそのはず……。ほら、あそこ」

突き当たりの塀にはあのボロボロの張り紙が張ってあった。

「なるほどそこで間違いないようだ。じゃあこの近くで見張っておいて、親玉の家を特定しよう」

時刻は昼過ぎ、まだまだあの奇妙な儀式が始まったばかりの時間だ。ここから夜まで待つのも、大分ひまね……。

「君によると夜までやっているらしいじゃないか。仕方ない。ここで暇を潰して……。いや、寝るとするか……」

二人ともあまり寝れていなかった為、路地でも構わずに寝てしまった。人目につかない路地でつくづく良かったと思う。はたから見たら、ただの浮浪者だ。


 ――う、ちょっと寝過ぎちゃった。そこはもう真っ暗。まずい。寝過ごしたかもしれない。急いでマルセイを起こし、様子を見る。

「……では一緒に私の家に行きましょう。今日の一日に感謝をのべるのです……」

「……本当に宗教だな。これは危険な臭い大きくなってきた」

神父が向かう道の後をこっそりついていく。そして彼らが入っていった家を見ると、どうやら神父の家はいたって普通の民家のようだった。見た限り変な箇所はない。強いて言うならこの時間帯でも明かりがついている事ぐらいだ。

「これが分かっただけでも充分だ。仲間に伝えてまた次の日、ここに来よう」

今日の日はこれで終わり。そう思い体を後ろに向けたその時だった。


「お待ちください」

……ああ、何て事だ。確かに後ろには、あの時のように気配もなく佇む老神父がいた。


「……何かご用でしょうか?」

 


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