裏切り者
「昨日の号外だ。見てくれ」
俺たちを部屋に招き入れたマルセイは、まず一枚の紙を渡してきた。そこには、大きな見出しで目を引くように、こう書かれていた。
『故郷を裏切った英雄。民の声は届かず』
「何だ…これは」
思わず口に出た。こんなにも悪く書かれるものだろうか。その後の詳しい説明にはこの事件の概要やら、この事件に関与している人物、勿論あの女もいた。しかし、やはり俺たちにも白羽の矢が立ったのだろう。女が口に出した俺の名と、カレロナの名。これが街の人々に知れ渡り、街の人々も俺に対して失望をする。つまり俺の評価は今底辺をさまよっていると言うことだ。
「僕は一応君の親友だ。しかしこればっかりは、助けを求められたって、どうしようもないからね」
本来はそれで助けを求めに来たわけでは無いのだが…。一体どうするべきか…。
「ねえ、マルセイ。私たちはこの事で助けを求めに来たわけではないの」
カレロナが状況を説明するように言った。マルセイは困惑の顔をする。
「良い?私たちが今欲しいもの、それはお金よ」
マルセイは眉をひそめ、話の続きを聞いた。
「この事件によって、私たちはあの街に居られなくなった。体制上や、その報道にも出ている女によって仕方なくね。そこで私たちは、旅を続けて逃げる事にしたのよ」
マルセイは全てを悟り、呆れた様子で溜め息をついた。
「…つまりはその資金のために僕の所持品を売ろうと、そう言う魂胆だね?」
「ま、そう言うこと」
マルセイは「勘弁してくれ」といつもの調子で言い、俺たちに反論した。
「金なんて何時か尽きるぞ。確かに貴重な物は持ってるが…。旅なんて一人で続けるだけでも辛いってのに、君たちの様な人間二人では到底不可能だ」
カレロナはその言い分にムッとし、マルセイに言い返した。
「何よ!一度は一緒に旅した仲間でしょ!?助けなさいよ!」
「分かってる。分かってるよ。だから貴重な物は君に譲る。けど、旅を続けるよりもここで、いっそのこと暮らすなり何なりした方が良いんじゃないかって話」
この環境で一生を過ごすってのか…。中々キツそうだな。
「ここで、暮らすの?…ねえディスペア。あんたはどう思うのよ」
ようやく二人とも落ち着いてきたみたいだ。いや、元はと言えば俺が悪いんだが…。しかし、ここで暮らすのは如何な物か…。
「や、すまんが俺はここで暮らすのは御免だね。何しろ住民の目が鋭い。いつ刺されても可笑しくなさそうだ。せめて俺の悪しき噂を知らない、他の国に行った方がいい」
マルセイは相変わらずしかめっ面で、俺の我が儘にしょうがなく答えた。
「…はあ。分かった。じゃあ着いてくると良いさ。次の行き場所は、他の国だからね。その国の名は『アーダン国』」
場が少し凍りついた。木々は静かに揺れ、空は灰色を持続させている。部屋の空気もそのように、暗く淀んだ。
「ここよりずっと煩くて、危険な国さ」
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