第3話『転校初日・中』

 入り口に使用したのは関係者兼職員用玄関。

 上履きへと履き替え誘導されるがまま校内を歩いていた。


「色々質問もあると思うけど、そこら辺のことはここで、ね」


 海原かいはら先生は、来賓応接室と表札に記された部屋の前で足を止めた。

 先生が三度扉を軽く叩くと――すぐに中から返事があったようで、流れのままに入室。


 一番奥の窓際に座る茶色のスーツを身に纏い、風格ある男性教師。

 膝丈までのマーメイドスカートに白いカーディガンを羽織る女性教師。

 黒色の羽織に黒色の長着に白黒の縦縞模様の袴を着た男性教師。

 青いスーツをビシッと決め込み鎖が付いた黒縁の丸片眼鏡の男性教師。

 計4人の教師は、席に着いたり、立った状態で待機していた。


「もっと中へどうぞ」


 海原先生に招かれるまま僕たちは扉付近より一歩前に出た。

 緊張感や圧迫感、それらを感じさせる静けさに僕たちは無言を発せずにいる。


 扉が閉まる音が鳴ると同時に、最奥の教師が話を始めた。


「おはようございます。皆さん、よくいらっしゃいましたね。早速で悪いんだけど、時間があるわけでもないから手短に済ませましょう。私はここ、第七都市クードバッサザリアのカザルミリア学園で、学園長をしている明泰あきやす元忠もとただです。よろしくね。っと、こんな感じで次々いきましょう」


 次に女性教師が、


「じゃあ、早速私からいきますね。一年三組の担任で、近藤こんどう流美るみです。よろしくね。これからかえでちゃんと椿つばきちゃんの担任になるから、なーんでも相談してねっ。2人とも、仲良くやっていきましょうねっ」


 前のめりで食い気味に話す近藤こんどう先生に、少し引き気味で僕の後ろの隠れるようにしてかえで椿つばきは、声を揃えて「はい、お願いします」と軽く挨拶を返した。

 それを見終えるやすぐに、これから舞踊でも始めるつもりなのかと聞きたい格好の教師が、


「あ~あ~、緊張しちゃってるじゃないの可哀そうに、近藤先生はガツガツしすぎなんですよ。もっと柔らかく接してあげなと。……おっと、話が反れちゃいましたね。私は二年二組を担任する大曲戸おおまがと太我たいがって言うから覚えておいてね。――そうそう、守結まゆさんの担任ってことね、よろしく」


 あっはっはと高笑いをする大曲戸先生を見て、守結姉は「あはは……」と苦笑いで応えた。

 最後に髪型も格好もガチガチに決め込んでいる教師が、


「お2人が普通ではない風に見えるから、彼らは混乱しているのですよ――そんなことは置いておいて、僕は三年三組担当の宇佐崎うさざきはじめです。逸真いっしん君の担任ってことだから、よろしく」


 見た目的にかなり若そうな宇佐崎うさざき先生は、一番若いだろうにしっかりとした口調で端的に会話を済ませた。


 ――どの学校でも聞き馴染みのある、鐘の音を模倣した音が敷地内に響き渡り始めた。

 だがこの部屋では鳴らず、廊下側の扉の隙間から漏れ出る音が微かに聞こえるだけだったため話はこのまま続いた。

 そして学園長が思い出したかのように、


「ちなみに現在室内に居る教師の各教室では非常勤講師により朝の学活が行われていて、それが終わり授業が始まるタイミングで各自のクラスに移動してもらう感じになるのでよろしくお願いします」


 それから少しの間、雑談が行われた。

 好きな科目や苦手な科目、趣味や日課について、些細な話であり思考を巡らせるほどの内容でもない。でもその会話のおかげで、気づけば肩の力が抜け表情も柔らかくなっていた。


 海原先生が固定時計に目線を運び、時間を確認して立ち上がりながら、


「では皆さんそろそろ時間になりますので、各教室へと移動開始しましょうか」


 その言葉を合図に一同起立し、各々担任教師と一緒に部屋を後にした。


「そういや、聞いてなかったけど志信君は何のクラスを選んだの?」

「えっと――」


 言葉を続けようとした時だった。

 足音が反響する生徒一人居ない静かな廊下、対面からは一人の若い男性教師がこちらに向かい歩いてくる。


「あ、西鳩にしばと先生お疲れ様です、三組の学活ありがとうございました」

「いえいえ、仕事ですから問題ありません。となると、そちらの子が編入生の子ですか?」


 向けられる視線に応えるように会釈を返し、


「本日から当校にてお世話になります、楠城志信と言います、これから迷惑をお掛けしないように勉学に励みますので、よろしくお願いします」


 そう当たり障りなく失礼の無いように挨拶をする。


「いいよいいよそんなに畏まらなくて、これからよろしくね楠城君、では私はこれで――」


 そう言い残し西鳩先生は去って行った。


「うんうん、彼はクールだね。西鳩先生は今の喋り方や態度のまんまの性格だから、もしかしたら君と性格の相性が良いかもしれないね」


 廊下を進みながらその言葉に疑問を覚えて考えているうちに、気づけば教室の前に辿り着いていた。


「志信君もまだ若いのに、そんなに畏まんないでいいんだよ、もっと学生らしく活き活きとしてて良いんだから」

「はい……」

「よし、挨拶してくるから待っててね。入ってきていいタイミングで扉を開けるから、それまで廊下で待ってて」


 そう言うと海原先生は僕を廊下に残し教室へと入って行った。

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