第42話 ホムラ対呪眼

 夜、レーミング領の森の中。そこには数人が立っていた。


 周囲でユラユラ炎の魔法が揺れる中、ホムラは夜空を見上げていた。単純に夜空の星が綺麗だな……という他愛無い感想を胸の内で抱いていた。


「あんまり星座とか知らないし、知ってるものも見当たらないな……」


 有名な名前の星座ならば形はわかるのだが、そんなものは一切見当たらない。


 綺麗だから良いかと思っていると、炎の魔法で周囲を照らしていたエルメティアが隣にやってくる。


「ホムラくんは星が好きですか?」


「そうですね。眺めているだけで心が落ち着く気がします」


「わかります。流れ星などを見ると、祈りを捧げてしまいます」


 先生がどんな願いをしているのかは気になるが、聞くのは野暮というものだろう。



「こんばんは、良い夜ですね」


 ホムラ達が空を眺めていると、今やってきたシスターハーヴェリアが声をかけてくる。彼女は、1人だけ護衛を伴ってやって来ていた。


「こんばんは、シスター」


「ええ、ホムラ君。私のために、態々声を掛けてくださりありがとうございます」


 挨拶をしたホムラにシスターが口元を緩めて挨拶を返してくれる。


「そちらの方はどなたですか?」


 シスターの隣にいる鎧を装備した女性が誰か気になった。


「ああ、彼女はネイチス。私が教会騎士の中でも1番信頼してる人物です。なので、2属性のことは気にしないでください。我々が誰かに漏らすことはあり得ませんから」


「ネイチスです。シスターの護衛でやって来ました。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 シスターの信頼の厚い騎士、なんだが格好良いなと思いながらホムラは挨拶を行うのだった。



 ホムラ達が森にいる目的はシスターの呪眼を治すためだ。街の方では、目隠しを外した瞬間に目から呪いが具現化して周囲に攻撃を行うため危険だと判断した。


 そのため森の中で行うことにしている。周囲には、誰も近づかないように屋敷のメイドさん達(元王国騎士)が警戒を行なっている。


「ホムラ、準備は良いか?ちゃっちゃと済ますとしよう」


 剣と鎧を装備した父様がやってくる。父様も警戒に加わっている。


「はい、父様。大丈夫です」


「無理はしないことだ。駄目そうなら出来ないと言えよ?怪我でもしたら怒るからな?」


 と言う父様にホムラは頷いて答える。



 無茶をすると、特に母様に怒られるのが怖い。森に入っていたことはしっかりと母様にも報告されており5属性使えることは喜んでくれていたが、それとは別に怒られている。めちゃくちゃ謝った。


「松明!シスター、始めましょうか」


 アイテムボックスから取り出した武器を握る。森の開けた場所に、ホムラとハーヴェリアが向かい合って立つ。


「無理だけはしないでください。失敗しても良いのです」


 優しい声を掛けてくるシスター。ホムラとしては絶対に治してみたいと思うものだ。



「白炎……」


 松明に白い炎が灯る。シスターに向けて松明を構える。周囲では、距離を取って父様や先生が見守ってくれている。危なくなれば、シスターがすぐに目を塞ぐことになっているが、何かあった際は先生が魔法を放ってくれるので安心して望める。


「それでは……」


 シスターが目隠しを下ろす。目隠しがあった場所には当然のように彼女の目がある。そして、まぶたが開かれた瞬間……


 彼女の優しいであろう瞳は見えることはなく、まぶたが開かれた時に見えたのはドロドロとしたどす黒い闇だった。


 そして闇は動物の様な形になってホムラを襲ってくる。この世界にはいないのだが、その形はライオンに似ていた。それが口を大きく開けてホムラに向かってくる。


「浄化の炎!」


 松明から炎が噴き出して、ライオンを形作った闇を消し去る。とりあえず、ホムラの魔法が通じることがわかった。


「ホムラくん、まだまだ来ますよ!」


 エルメティアの声にすぐに集中する。シスターの呪眼の力を知っているエルメティアから話は聞いている。厄介なのは個体の強さでは無い、次々に襲ってくる呪いの殲滅力だ。


「ぐ……あぁぁぁぁ……」


 歯を食いしばって、声を漏らすシスター。その呪眼からは大量の鳥の形をした闇が飛んでくる。


「浄化の炎!」


 魔力の消費も考えあまり広範囲に撃たないようにしているとそれを回避して黒い鳥が距離を詰めてくる。


「はぁ!」


 だが、ホムラは黒い鳥にそのまま松明を振り下ろして叩き落とした。そして、松明の先端の炎で燃やす。



 第二軍と言わんばかりにこちらに黒い鳥が向かって来る。これは時間をかければ押し切られるのがわかる。


「無理矢理押し通る!いくぞ」


 群れで向かってくる黒い鳥達にホムラは、松明を投擲するのだった。

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