第33話 先生にもプレゼントを

「お、戻ったかホムラ。エミーシャ様とは仲良く出来たか?しかし、彼女の心を掴むとはなかなかやるじゃないか!」


 パーティ会場にエミーシャと戻り、父様の所に行くとそう聞いてくる。


「掴めそうもないですよ……あれは、ドラゴンと大して変わらない暴れっぷりです」



 この部屋に戻る前に、


「あんたねぇ、パンツのことバラしたらぶっ殺す。覚悟することね!」


 と脅された。弱味を握られているはずなのにお嬢様は強いものだ。しかし、とんでもない拳を持っていらっしゃる。魔力障壁にヒビが入った時は焦ったものだ。下手をしたら本当に殺しに来るかもしれない。


「花束は、ありがと……」


「あ、おうよ」


 まさかしっかりとお礼を言われるとは思わなかった。そこに関しては驚いて曖昧な返事をしてしまったものだ。




「ははは、公爵からも聞いていたが、なかなかに元気なお方らしいな。だがホムラ、ドラゴンはいけない。せめてワイバーン位にしときなさい」


「いや駄目でしょう……あ、そういえば冒険者の方とはお話しすることが出来そうですか?僕は、結構頑張りましたからね?」


 これで交渉出来てなければ当分の間は口を聞かなくなるかもしれない。


「抜かりないさ、今から話しに行くか?」


「ぜひっ!」


 



「こいつが息子のホムラだ。よろしければ、話しをしてもらえないだろうか?」


「ホムラ・レーミングと申します!よろしくお願いします」


 父様に紹介されて挨拶を行う。見るからに強そうな人達だ。


「ああ、私がSランク冒険者のエリアノーラだ。よろしく」


 灰色の髪の獣人が応える。凛とした声に、堂々とした佇まい。格好いいなと思う。


「私は、ティアーナだよ!君がエルメティアが言っていた自慢の弟子なんだね〜。うーん、良い魔力を感じるね。あ!別に誰かに言ったりはしないから安心してね」


 彼女には、自分の魔力についてのことがわかる様だ。Sランクになるとそれだけの察知能力もある様だ。最後は、声を小さくして言ってくれたので、周囲には聞こえていない。


「じゃあ残りは僕だね。僕は、ガレオン。強そうな名前とかよく言われるんだけど、ヒーラーなんだ。だから戦闘力は残念ながら。よろしくね、ホムラ君」


 3人とそれぞれ握手する。



「ガレオンさんは、4系統も使えるんですか!」


「うん、属性としては2つだけどね。基本的にはヒーラーとして蒼属性しか使わないけど」


 もう一つの属性は、白属性を使えるらしい。特に蒼属性に関しては、相当に極めているらしくこの国でも屈指の使い手だとエリアノーラやティアーナが答える。


「随分とお世話になってきた。安心して戦えるというものだ」


「そうだね!私達2人は、接近戦がメインだから怪我もするし優秀なヒーラーがいて感謝だよ」


「すぐに突っ込んで行くからですよ。他のみんなも大変なんですから」


 どうやらエリアノーラとティアーナは、戦闘狂の可能性がある。これは、ガレオンが苦労しているのかと思ったが、他にもあと2人パーティメンバーがいるらしい。機会があれば会ってみたいものだ。



 Sランク冒険者ならではの冒険話しは、とても面白いものだった。相当な数の修羅場を潜り抜けているだけあって何度かは死んだなと思った瞬間もあったそうだ。なかなかに恐ろしい職業でもある。


「貴重なお話をありがとうございます!」


「構わない。また次に会うときにも、面白い話しが出来る様に冒険しよう」


「そうだね〜、ホムラ君は他の貴族の子と違って我儘じゃないからいくらでもお話しできるよ」


 貴族の子供は、かなりの我儘な要求を冒険者にするようだ。先程の様な奴なのだろう。自分勝手なもので、あれでは将来が心配になる。


「その内、レーミング領に寄ることもありますのでその時はまあ会いましょう。なんなら、近くの森くらいなら一緒に冒険しましょうか」


 Sランク冒険者が一緒に冒険してくれるとはありがたい限りだ。これは、嬉しい声かけ。


「はい、楽しみにしてます!」


 



 その後は特に何か起きるわけでもなく、パーティは終了となった。ホムラとしては、誰かに絡まれるということがなくホッとした所だ。


「じゃあな、ホムラ!機会があればまた会おうぜ」


 ギリーアはの言葉に頷く。彼くらいしか友達はできなかったが、友達は量ではない。彼と知り合えたのは良い出会いだったと思う。



「先生は何をされてたのですか?」


「それがですね、貴族達が愛人や妾にならないか?というのをひたすら回避していました。全く困ったものですよ、しつこいものです」


 先生は先生で大変だった様だ。


「それはまた……」


「ホムラくんは、良いですよね。女の子達にチヤホヤされて。それにエミーシャ様にお呼ばれまでされて」


 実際は、かなり大変だったのだ。こちらも必死に足を舐めようとしたり、パンツを覗いたりと。


「それもそれで大変なんですよ。パフォーマンスも、緊張したんですから」


「そうですよ!なんですあれは!ええ、ずるいですね。ホムラくんに花束を貰えるなど前世でどれだけの徳を積んだのか」


 急に興奮する様に声を上げる先生。ずっとハンカチを噛んでいたが、羨ましかった様だ。あなたはなかなかの年齢のはずだが……実際の所は知らないが、エルフなので下手したら100いってるのかもしれない。


「先生も花が欲しかったんですか?」


「もちろんですよ。ホムラくんから送られることに意味があります!あー、私も欲しいですね〜」


 残念ながら花は売り切れだ。エミーシャに大盤振る舞いし過ぎたことを後悔する。


 だが、お小遣いで買ったものにはまだ良いものが含まれているはずだ。


「すみません、もう花は無いんですよ。あ!先生、そこに屈んでもらっていいですか?」


「私には、徳が足りなかったか……前世の私、恨みますよ。……それで、どうしたんです?ハグします?」


 と残念がりながらも屈んではくれる。もう堂々と抱きしめるつもりの様だ。


「耳を触って良いですか?」


「耳ですか?……特別ですよ、他のエルフなんかにはそんなこと聞いてはいけませんからね」


 覚えておこう。と言いながら耳を触り、手を離す。


「喜んでもらえたら」


 と近くの鏡を指し示す。そこには、イヤリングを耳につけたエルメティアが映っていた。


「嬉しいです、ホムラくん!」


 即座に抱きしめられる。父様がニヤニヤして見ているから恥ずかしい。

 

「喜んで貰えて嬉しいですよ、先生」


 とりあえず、なんとかなったなとホムラはホッとするのだった。

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