第30話 花束をプレゼント
「それでは、ご指名頂いたことですし。では、紙を1枚拝借」
紙ナプキンを取って、周囲にもよく見える様にする。食事をしていた貴族達も注目し始めた様だ。緊張が高まる。
「確かに、ただの紙だな」
誰かの声が流れる。
「エミーシャ様の前ですので、盛大にやらせて頂いたいと思います」
と言いながらホムラは懐から杖を取り出した。くしゃくしゃに丸めた紙を宙に向かって放り投げるとすぐに杖を向ける。
「ファイア!」
杖から放たれた炎が、紙に命中して燃えカスすら残さずに紙を燃焼させる。宙で燃え上がったものを一同が眺める。
「おい、花が出てこないじゃないか」
「失敗か?」
「調子に乗るからだ、恥をかいたな」
中には嘲るような声も聞こえる。よし、お前の顔を覚えたからな。
「すでに届けさせて頂きましたよ。エミーシャ様、本日は誠におめでとうございます!」
ホムラがエミーシャに顔を向けると、椅子に座っているエミーシャの膝の上にはラッピングされた花束が置かれていた。
膝の上に置かれていることにエミーシャ自身も、そして会場の者達も今気づいた様で一同息を飲むのが聞こえた気がした。
「見事だ。一体、いつの間にこれだけの花束を……アイテムボックスでも持っているのでは無いかとすら思ってしまう」
「我が息子が生まれた時に鑑定を行いましたが、アイテムボックスは発見されませんでした」
父様が説明してくれる。まあ、持ってるんですけどね。
「アイテムボックスであれば、逆に問題が発生するだろうな。ここの貴族、全てが彼を手に入れようと躍起になるかもしれん」
魔法系のスキル同様、遺伝する可能性があるのだ。下手をすると捕らえられて種馬コースかもしれない。
「ご鑑賞ありがとうございました。無事に成功、エミーシャ様を祝うことが出来ました。私などのパフォーマンスにお付き合い頂きありがとうございます」
と礼をする。とりあえず、切り抜けることが出来たと思って良いだろう。拍手が始まり、嘲っていた者が少し嫌な顔をしていた。
「エミーシャ、お前からも礼を言わんか?」
「え?ええ、そうですね。素敵な花をありがとう」
簡単な言葉をかけられる。もっとこうスキィ!とかならんかなと思ったが、凄まじい妄想だなと思う。
「それでは、我々は下がらせて貰います。ありがとうございました」
父が挨拶をするのに合わせて礼をする。そのまま公爵の前を辞した。とりあえずミッションコンプリートだ。
「失敗したのかとヒヤヒヤしたぞ?しかし、よく頑張った」
「大したことじゃありませんよ。あ!でも、恥だとか言ってた方の顔は覚えておいてくださいね」
僕はそこそこ根に持つぞ。
「ふふふ、貴族とはそう言うこともある。私も何度歌声を罵られたか」
「それは、平民貴族で変わらずの評価ですよ」
あの歌を披露したのか?とてつもない度胸をお持ちだ。
「む……、頑張ったことだしSランク冒険者と話しが出来ないかは聞いてみよう。ホムラは、またご飯でも食べとけ。それか友達でも作っておくんだな」
「友達は1人出来たので、ご飯を食べておきます。頼みましたよ!」
「1人って、もう少し作れよ……」
貴族ってめんどくさいじゃん。ギリーアは関わりやすいから良いけど。
「よぉ、やるじゃねーの!どうやったらあんなの出来るんだ?」
子供用のスペースに戻ると早速ギリーアが声をかけてくる。ホムラのパフォーマンスに興奮気味だ。
「秘密だよ、秘密!明かしたらつまらないだろ?」
「いやぁ、あれは気になるって。アイテムボックスでもないんだろ?そもそも持ってたらヤバいけど」
アイテムボックスは隠蔽されているためバレることはない。そこに関しては、ミルレイヌ神に感謝したい。そして実験を行った所、アイテムボックスの出し入れは手で触れずとも行えることを知った。距離の制限はあるが非常に便利だ。みんなの視線を逸らしている間にエミーシャの膝に花束を置くなど楽勝である。
「なぁに、そのままモヤモヤしてくれ」
お肉をとりながら答えるホムラ。早く冒険者と話しがしたくて待ちきれない。父様が交渉しようとしているのが見えたので、もう少しの辛抱だろう。
「どけ、下級貴族が」
「いたっ……」
ホムラが食事をしていると、ギリーアを押しのけてこちらにやってくるものがいた。おぉ、性格が悪い。
金髪のいかにも傲慢なことを言いそうな顔をした男の子だ。年齢的には自分よりも歳上に見えるが。
「お前、さっきのどうやったか教えろ!これは命令だ」
偉そうなのキタァ!これは非常に面倒そうな相手に絡まれました。
ホムラはどう対処したものかな?と考えるのだった。
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