第113話 星田健誠編「能力を手にした理由」

----------


 グチュ……グチャ……


 篠原は、彼が息絶えたのを知らないのか、何度も腹を刺している。鬼の形相で狂った目で、血まみれの腹を刺し続ける。まさに、悪魔だ。やがて、ナイフを持った篠原は、幼い俺の目を見て微笑みながら話し始める。


「稔、良子。研究者は辛いな……しかし、子が殺される瞬間は見たくないだろう。だから私に感謝してくれ……どうしてもやらなきゃいけないんだから」


 そして、篠原はパソコンを立ち上げ、アップロードされていたデータを消した。悪魔の論文がアップされてすぐに消された理由がこれで分かった、父さんがアップしたデータを篠原が消していたんだ。アクマの研究結果を独占するためか、それともアクマの存在を秘匿するためか、目的は分からない。


「ケントくん、君が死ねば、一家心中として片付けられる。しかし、そんなグロテスクなことはしたくない。だから、君は全てを忘れてくれ……それは難しいか、やっぱり死んでもらおう」


 篠原は狂った目で、ナイフを捨て、箱に入ったアクマを取り出す。白く、同時に赤い粉、見たことがある。これこそ、Dream Powder。篠原は本当に死人を生き返らせるつもりなのか。


 篠原はその粉を手に取り出し、思い切って鼻から吸う。そして、願いを大声で叫ぶ。


「私の妻、篠原舞を生き返らせろ!」


 すると、篠原の体は急にオレンジ色に光り始めた。足元には白い魔法陣、これは能力取得に成功したのか、そう考えていると……突然、篠原が発狂し始めた。


「ああああああっ痛い、痛い、何なんだ、この痛みは、ああああああああ、やめろ、よせ、わたしは、まいを、生き返らせたい、だけなのに、ああああああああああああああああ」


 篠原は胸を押さえ叫びまくる、光はオレンジ色から白に変わっていく。これは、願いが叶わなかった時の合図だ。


「願いを、叶えてくれえええええああああああああああああああああああ」


 ドカンッ!!


 そして奴は大爆発を起こした。


 しかし、何故か家は崩壊しなかった。薬物使用者が願いを叶えられなければ、即座もしくは1分後に爆発する。篠原は即座に爆発するパターンだった。俺の目の前で爆発を起こしているのに、その爆発のエネルギーは何者かに抑えつけられている。どうなってんだよ、これ。


 篠原の体を中心にして起こった爆発とエネルギーは、全て……幼い俺に回収されていく。オレンジ色の波や光が、俺の体に入っていくのだ。至近距離で爆発のエネルギーを受けたはずなのに。


「何が起きている?」と、臣は驚いている。


 そういうことか、俺が能力を手にした理由が、やっと分かったぞ。俺は篠原の爆発を至近距離で食らった。しかし爆発には巻き込まれずに、生き残った。理由は……エネルギーを、全て受け入れたから。そして同時に、アクマのDream Powderを摂取して、父さんの願いを叶えたんだ。俺が今、ここにいる理由、それは……父さんの願いだったんだ。


 俺の封じられた記憶に、全てが詰まっていた。両親の失踪した謎も、能力を手にした原因も、俺が本能的に戦い続けている理由も、何もかも。


「君の能力は、僕の父親が原因だったのか」


 真っ白な光に包まれた幼い俺は、無傷で生還。部屋には父さんと母さんの遺体が残されていた。幼い俺はただひたすら、泣いている。目の前で両親が殺されたから、なのに俺は忘れていた。DPを摂取したことにより、ここら辺の記憶を失っていたんだろう。その光景を見て、俺もまた涙を流す。


 少しすると、幼い俺は疲れ果てたのか、眠った。子供なのにDream Powderを摂取したからだ、仕方ない。篠原の遺体は爆発で消滅している。だからこの部屋には、幼い俺しかいない。


 そういえば、山崎の事件。刑務所から脱獄するために、炎の能力を持った薬物使用者を雇って、刑務所を燃やした。しかしそのうちの1人は力に耐えきれずに爆発し、山崎は至近距離でその爆発を受けたが……生き残ったと聞いた。俺も、山崎と同じだ。爆発を至近距離で受けて、生き残った。Dream Powderの、新たな可能性か。


 俺は部屋の中に入り、倒れた2人を眺める。2人とも目を閉じて、笑顔で息を引き取っている。ケントが無事だと知ったからか、この上ない笑みを浮かべていた。全ての記憶を辿った俺が部屋を出ようとすると……何故か、死んでいるはずの父さんが口を開いた。


「そこにいるのは、ケントか?」


 もう父さんは死んでいるし、これは過去の記憶を映し出したもの。実際にタイムスリップして会っている訳じゃない、なのに何で、父さんは俺が来たって分かるんだ。続いて母さんも口を開く。


「立派に育ったね、ケント」


 これは、幻覚じゃない。Dream Powderが、アクマが、未来と過去の記憶を繋ぎ合わせているんだ。人間の理解を超えた、夢を具現化する薬の真の能力、俺はそう受け取った。俺は2人の間に座り、2人の顔を見て話す。


「父さんの夢は、俺が引き継ぐよ」


「そうか。ケントは昔から立派だ。ケントなら、不可能も可能に変えられる」


「母さん、俺は今まで2人を信じてなかった。本当にごめん」


「いいえ、今のケントの姿を見られただけでも、幸せなんだから。ケントは昔から、私たちのヒーローよ」


 アクマの粉、Dream Powderを介して、過去の父さんと母さんと、未来の俺は繋がっている。それは父さんと母さんが、必死になって研究してくれたお陰。2人がいなかったら、今の俺はいなかったと思う。2人が粉を研究していなかったら、既に俺は死んでいた、本能に従わずに戦って負けていた。父さんと母さんは、俺の心の中に眠っていたんだ。


「もう時間がない、これだけは伝えておこう。マザーストーンは、東京タワーの地下研究所に隠されている。詳しいことは日暮に聞くんだ。奴らはマザーストーンを狙ってくる、だからケントが守るんだぞ、父さんと……母さんとの約束だ。愛してる」


 父さんの言葉と共に、この部屋は崩壊した。2人の姿は少しずつ薄くなっていった。残された幼い俺も、一緒になって消えていく。俺は涙を流しながら、心の中で2人に感謝を述べ、強く決心する。


----------

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る