第71話 クリスマスイヴ

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「坂田さんと鎌切さんは、江副の保護と証言の準備を進めてください」


 薄暗く無機質な病室の中で、俺は彼らに指示を出す。佐野が薬物使用者で、全て仕組まれたということを国民の前で示す作戦の指揮を執るのは、この俺。山口課長でもなく、ショウでもなく。同時に、反JDPA_D組織と成り果てたNEXUSのリーダーになった。


「西山さんは作戦決行当日まで、瀧口さんの手当てをお願いします」


 作戦決行は12月24日を予定している。その日はクリスマスイヴであると同時に、佐野を中心とした対薬物使用者特別チームを結成するとされている。JDPA_DとかSTAGEどころの比じゃない。国際的に指名手配された俺とショウを徹底的に殺すために、国内外問わず集められるとか。


 国際チームの法案も可決され、後は結成を待つのみ。俺たちはどうにかして、それを阻止しなければならない。世間の薬物使用者に対するヘイトは高まりに高まっている。


「エヴァローズさんは、訓練所を確保しておいてください。4日間、寝て過ごしたくないので」


 彼は見舞いとして色んなビデオを持ってきた。更に俺にどうやら、何回かの練習で技を習得できるという特殊能力が備わっているらしい。現に、池袋戦では彼の特訓に助けられた。風邪をひいたのも、懐かしい。


「目黒さんは自衛隊員の動向を監視しています。目黒基地の作戦本部にも関わっているため、嘘の情報を流して自衛隊員をそちらに集中させることも可能だそうです」


 目黒さん、いや、自衛隊の目黒隊員は頭脳班として働いている。対薬物使用者の作戦もいくつか考案したらしい。そのため、1週間もせずに上司に気に入られ信頼されているとか。彼なら嘘情報をばらまいても、気付かれずに押し通せるだろう。


「俺とショウは当日に備えて、訓練所にいます。瀧口さんは……まだ眠っているので、後で話し合います。山口課長は、情報の整理をお願いします」


 彼女は西山さんを助けを求め、そのまま気絶した。傷は浅いが、DP由来の弾であるため、ダメージは深い。元は薬物使用者を殺すために作られた武器だから、それでも生きているってのは奇跡だ。まだ起きていないし、これからどうしたいかは本人に聞く。


「分かりました。私の信頼できる仲間に声をかけてみます。彼もまた、星田くんに命を救われた者なので」


 山口課長は渋い声で、頭を下げた。これでひとまず会議は終了、解散となった。地下室で光が入ってこないため分からなかったが、もう外の世界では朝になっているらしい。警察官の仕事がある人達はここで帰り、また訓練所を確保しに行くエヴァローズさんとショウも帰った。ここにいるのは、俺と瀧口さんと西山さんのみ。


「じゃ、戻らないと上司が不審に思うから。何かあったら連絡して、すぐに駆けつける」


 その西山さんも戻っていった。ここにいるのは、横になっている俺と眠っている瀧口さんのみ。参ったな……俺の体の傷は、ほぼほぼ治ってきている。肩に力を込めれば、修復も早くなる。かと言って、まだ訓練には参加できない。だから俺はここで、耐えなきゃいけない。心の中から押し寄せてくる、戦闘欲に。戦いたい、この一心でガリレオ共をぶっ潰したのに。


 俺は真田に電話をかけることにした。地下でも電波が良く、接続も途切れることなく彼と繋がった。


「何か用かい?」


「作戦決行日が決まった。12月24日、18時に警視庁の特別大会議室」


「分かった。僕も行くよ、とっておきのサプライズがあるから楽しみにしてくれ。じゃあ、僕はこれから仕事だから」


 時間も時間だからか、通話は途絶えた。サプライズって何だろう、クリスマスイヴだし何かくれるのかも。手元にあるのは充電中のスマホとペットボトルのみ。パソコンもなければ食べ物も置いていないため、時間を潰すことすらできない。だから体の傷を癒すためにも寝ようとしたその時、彼女が目覚めた。


「……生きてる」


 瀧口さんの第一声はこれだった。自身も撃たれたと思っていたのか、患者服を破り心臓辺りを確認している。包帯で巻かれている胸を見て一安心し、もう一度眠りにつこうとした時、俺と目が合った。


「……えっ、どうして」


 彼女は急いで布団で体を隠そうとするも、腕に力が入らなかったのか手が震えている。俺は右手を伸ばし、彼女の体に布団を掛けておいた。穴が空いた右肩は塞がってきているとは言え、動かすとやっぱり痛い。


「西山さんに助けられましたよ。俺ら」


 彼女の右手には赤い液体の痕が残っている。洗っても取れないということは、本物の血って訳か。彼女は俺が気絶した後も、撃たれているのに関わらず必死に助けを呼ぼうと抗っていたらしい。俺は瀧口さんの手を握り、あることを聞いてみる。


「佐野と戦い続けますか?」


 彼女の答えは、俺が思っていた通りのもの。


「戦うよ、戦う」


 そして部屋のそばに置かれているホワイトボードの文字を見つめ、天井を見つめながら、また答えた。


「クリスマスイヴね、よかった。予定も無いし」


 彼女と俺は無機質な天井を見つめ、手を握ったまま眠った。心の穴を埋めるのに、距離なんてあっても関係ない。区切るためのカーテンも、取ってしまえばいいだけ。離れていても、手を伸ばして握ればいいだけ。そうだよ、最初から話せばよかった。


 クリスマスイヴ、キリストの降誕記念の前日。その日に、俺たちは戦う。不条理な戦い、臆病な奴。どうだっていい、俺は奴らを潰してやる。そして奴らに苦しめられたみんなを救う。俺も、瀧口さんも、ショウも、STAGEのみんなも、SoulTの今も。


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