第28話 立てこもり犯、能力者の警察官

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 JDPA_D副本部長の運転する高級車に乗って、俺とショウは現場へ向かった。副本部長の歳はよく分からないが、60歳を超えていたはず。何故副本部長の車に乗ることになったんだろう。それに彼も不満そうにずっと「犯罪者が」と呟いている。


「御協力感謝します」


「いくら優れた車を持っていたとしても、何故わたくしなんだ」


 やはり彼自身もよく分かっていない様子。結局、この通達を送ってきたのは一体誰なんだ。JDPA_Dの専用車両に乗せればいいのに。または警察の車両に乗せれば、信号を無視して行くこともできた。


 本当に不思議な組織だな。


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 あれから1時間くらいで現場に着いた。結局警察車両ということにして信号無視して突っ走ってきた。覆面パトカーについているライトを付けながら。だったら最初から警察車両に乗せればいいのに。STAGEというのは、一応JDPA_Dと警視庁が協力して作られた組織なんだから。


 スーツ姿に着替えた俺とショウは、さいたま警察署の近くにあるビルの屋上で作戦会議をしている。犯人が立てこもっているさいたま警察署の後ろ側にビルがあり、俺たちは今そこにいる。周りにはビルが少ないから、前みたいにビルを伝って戦うことはできなさそうだ。


 ショウのスーツに付いているゴーグルから大まかな人数と犯人の武器を割り出す。ショウのゴーグルには色々な機能が付いてるらしいな。俺もできたら欲しかった。まぁ、目をつぶっていても感覚で何となく分かるが。


 彼のゴーグルのサーモグラフィーモードにより、中には薬物使用者が居ないことが分かった。薬物使用者は異常な程の熱を発するが、警察署からはそれが見られない。薬物使用者がいないのなら制圧は簡単だが、人質がいる。特殊部隊はいるが、外で待機しているだけ。


「作戦を立てよう。反応が出ているのは3階、他の階に人はいないから潜入は簡単そうだ。俺が外に連れ出すから、星田は囮になって中にいる犯罪者と戦ってほしい」


 ショウのサーモグラフィーゴーグルによると、人質は18人、警視庁長官とさいたま警察署の署長もいて計20人。犯罪者の奴らは合計で3人、感覚だが銃を持っている奴もいるな。さっきから銃の入ったケースを触る音が聞こえている。


「3人なら、窓を突き破って突入しよう。気を取られた隙に星田が殴る。ナイフを使ってもいいが殺さないように。その間に俺が連れ出す。この作戦でいいな?」


 ショウの考えた作戦を元に彼らを救出しよう。初めての共同任務だ。緊張するが、新たに手に入れた能力を使えばどうってことない。とにかく、銃を使わせないようにすれば。奴らと警視庁長官の距離が遠くなった瞬間に突入して、すぐにナイフを投げちゃえばいいさ。


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「お前ら、動いたら撃ち殺すからな」


 警察署の中で、人を脅しているような声が聞こえる。ここに今から突入する。突入方法は簡単、窓ガラスを突き破って行くだけ。ショウの翼は頑丈だから、ショウの足を掴めば俺も一緒に飛ぶことができる。これを利用する。


 しかしショウの持つ翼は機動音が大きく、使い過ぎると敵にバレてしまう。だから今回は使い始めが肝心になってくる。使ってから奴らにバレるまで、俺がどう動くかが。


「行くぞ、星田」


 その掛け声と共に、彼は翼を起動する。

 銀色に光るボディと翼、目には赤いゴーグル、まるで本物のヒーローみたいじゃないか。いや、本物のヒーローではあるか。言いたいのは、特撮番組でよく見るやつだ。


グォン!


 派手な機動音と共に翼を開いたショウは飛ぶ。俺は飛ぶ彼の足を掴み、3階まで運んでもらう。機動音のせいで奴らに気付かれてしまったが、逆に考えると視線が全員俺に釘付けになっている。だからこそ、助けやすい。


「今だ!」と、掛け声と同時に彼は俺を思いっきり足で振り飛ばした。


 ガシャン!


 窓ガラスを突き破って中に侵入した俺は、ポケットに入れていた小石を、まずは近くにいた犯人の1人の頭に向かって投げつける。何の変哲もない、適当にそこら辺で拾った小石だが、俺には能力によって優れた腕力がある。小石が顔面に当たった奴は鼻血を噴出し悶えているが、気にせずに顔面に拳を入れる。


 バリンッ……!


 続けて別の窓ガラスを割って飛びながら侵入してきたショウは、1番近くにいた犯人をラリアットで倒す。飛んできたために慣性の法則とかも働いたのか、ぶつけられた奴は吹っ飛んで壁に激突していた。物理の用語は詳しくないからよく分からないが。


「何がどうなってんだよ……」


 残された1人は持っていたショットガンを落とし、その場に崩れ落ちた。諦めたのか……と思い奴の胸ぐらを掴んで一発拳を入れようとした時、奴は叫んだ。




「訓練じゃねぇのかよ!」


は?


 何が訓練なんだろうか。

 一旦手を離し、ショウの顔を見てみるが、彼も何も聞かされていない様子。とりあえず、何のことかを目の前で悶えている奴に聞くことにした。


「訓練って何の話だ?」


「俺らは雇われたんだ! 警察署で強盗が起きた時のための訓練として!」


 よく見ると、部屋の隅には「強盗」と書かれたゼッケンが落ちている。もしや、目の前にいる奴の言うことが正しいのなら、本当にこれは強盗対策の訓練なんじゃないか。奴の呼吸音を聴いているが、嘘をついているようには見えない。


 ショウもそれを感じ取ったのか、無線で外と連絡を取ろうとしていた。


 が、その時。


 俺は何者かによって殴られた。


「誰だッ」と声を上げて後ろを振り向くと、そこには囚われていた人質達が、体をオレンジ色に光らせて立っていた。それも、署長と警視庁長官を除いた18人が。


 これは見たら分かる、薬物使用者の効果によるものだ。どうして警察官の中に、こんなにも薬物使用者がいるんだ……?


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