第72話 満天の星空
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「ごめんなさい……」
「怪我は無かったか?」
とある用事でゼロワ村に出かけていたシアンとガイアさんが帰ってきた。
俺とロックは奴に叩きのめされ、その場から動けないくらいの傷を負った。エストは怪我はしていないものの、奴に会ったことから心的な傷を負ったようにも見える。
「どしたのこんなに……」
「何があったか?」
ルカとディールも帰ってきたようだ。
奴の召喚した炎の絨毯が草木を燃やしていたらしく、村近くの森が燃えていた。後に消火したものの、都市の者が訪れる程の大騒ぎになっていた様子。
もちろん、都市の人間にこれらのことは話せない。エストのことは「親戚の人」と説明して、家に泊めている……設定にした。
もし魔法使いがいると世間に気づかれれば、今以上にパニックに陥るに違いない。面倒ごとは避けたいものだ。
都市の人間が帰り、夜も寝静まった頃、怪我を薬で治してもらいつつ、俺は鈴でドラゴンを呼んだ。距離的にすぐは来れなかったが、それでもヤツは30分くらいで俺たちの暮らすリバイル村に到着したみたいだった。
「この有り様は……」
モンスターと共存している世界といえど、ルカ目線ドラゴンを見るのは初めてである。突如現れた巨大な龍に驚いたような表情を見せたが、決して叫んだり拒絶したりはしなかった。逆に興味があるようで、ヤツのぽっちゃりと出ている腹を触っていた。
ドラゴンは空からリバイル村の様子を見ている。
一部分焼けきった森、不思議な模様に刈り取られた草、窓ガラスは割れており、一部の家は屋根が吹き飛ばされていた。どう見たって、犯人はモンスターではない。巨大なスケルトンの方が被害は大きいが、空間の石を盗まれたというのがまた大きい。
「世界の帝王のように、世界の人民を一つにしたかったのか。それにしては少年に創造魔法を教えた、その意図が分からない」
エストについての情報を全てヤツに教えた。ヤツは飲み込みが早く、すぐに何でも理解できていたが、レッドの目的だけが理解できていなかった。これは俺もロックもエスト自身も、誰も理解できていないのだが。
しかし、世界を滅亡させたい。この意思だけは確りと伝わってくる。
ここでロックが口を開いた。
「私は見た、彼女が消滅する際に左手が緑色に光っていたのを。もしやエスト君が言う、緑色の石と何か関わるのでは?」
確かに、奴の渦も緑色に発光していたし、空間の石も石。エストによると、緑色の石は”時の石”と呼んでいたらしい。時を操る石か、それなら過去でも未来でもどこかに飛んだということになるな。言葉だけならそう考えられるが、実際に過去や未来に行かれていると、俺たちが追いつく術はない。
ならば、時の石を探さなければいけないな。
エストによると、時の石は王冠に付いていたらしい。俺たちもハルカーレの王の王冠を……と、彼は王冠を身につけていた記憶はない。そもそも王国制ではないから、王が居ない。
「緑色の石なら、草っ原の上に落ちてたど」
ディールが口を開いた。
緑色の石が草原にあった? 緑色の石は珍しいが、それがそうとは限らない。一応実物を見たであろうエストに確かめてもらおう。ディールにここに持ってくるようお願いをした。
「これだで」
ディールは緑色に光る、小粒くらいの石を2つ持って来た。2つもあるのか、よく見ると2つとも砕けた跡がある。
「これですね。握ると緑色に発光します」
もしエストの言っていることが正しく、小粒くらいの大きさなら……もしや、2つとも時の石の破片ということか。実際に握ると、強く緑色に発光した。これ以上握るのはやめておこう、とそっと机の上に置いた。
「私は上から、他にもないか探してみよう」
「俺とガイアでも行ぐんだで、俺は森を探す」
ドラゴンが飛び立ち、ガイアさんとディールが森の方へ向かった。シアンとルカは傷を負った俺たちの看病をするためにここに残った。
もう夜時、呼吸を整えて、眠りにつく。石のことは考えないでおこう。寝る時くらいは、ゆっくり休みたい。
頭の思考が追いついていない。整理ができていない証拠だ。ここ最近、色々なことがありすぎた。休ませろ、休ませてくれ。
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目を覚ますと、満天の星空に囲まれて、俺は飛んでいた。上を向いても星、下を向いても星、全てを覆うように星空が形成されている。
俺が今飛んでいる理由は……分からない。
ただ、何者かに追われているな。後ろから、俺と同じように飛行する奴がいる。奴は鳥のように翼を持ち、鳥のように星空を駆ける。
奴が何故俺を狙っているのかなんてものも分からない。何か俺に情報をくれ。
そうだ、俺はトールの力で飛んでいる、ならば奴を雷の力で落とすことくらい簡単じゃないか。俺は飛行しつつ、奴に向かって雷を落とした。雷は俺から見て、上の方から落ちてくる。奴は雷を物の見事に避けるため、中々当たらない。そうこうしているうちに、奴が俺に追いつき、俺のことを地面に叩き落とした。
俺は星空へ真っ逆さま。
ガタン……鈍い音を発生させつつ、俺は地面に落ちた。星空のくせに、限界はあるようだ。更に、奴ではない大量の人間が、俺の元に向かってくる。
「たいしのうをさつけゆらたすまへ」
「りょうい、ああまいきそゆすまきふ」
何を言っているか分からない。
で、突然、奴らは俺の首筋に何か鋭利な物を差し込んだ。ナイフではないな、と考えているうちに、俺は眠りについていた。
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